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本当に面白い簿記・会計(おにぎりパクリ)

第14回 今後の金融機関はどうなるのか

オプション価格が開発されたことで、これまでの相場に頼っていた
価格が理論値として簡単に出されるようになると、
あらゆる金融商品のオプション取引が行われるようにありました。

それは通貨、金利、そして債券です。現物取引では、取引額と同額の資金を今、
もっていなければならないのに対して、オプション取引であれば
取引額の数%のオプション料を払えば、額面の取引が出来ます。
また、先行き事態が仮に不利になっても、支払い済のオプション料
以外損失が出ません。このことで、様々な金融商品が開発されたようなのです。

例えば、住宅市場で当時住宅ローンを取り扱っていた住宅貯蓄貸付組合に
対して、そのローンの支払契約書を担保に債権化し、機関投資家に売ります。
この際、金利が安くなった時のローンの借り換え、住宅を手放した
債務者の早期償還によるリスクを場所、年齢、学歴、支払い期間、金額に
よってどのように異なるか分析し、統計処理し、商品設計に組み込みます。
この債券を1980年代に開発したのが、ソロモンブラザーズ、その
ラニエーリ一家と呼ばれる販売軍団が市場で売りまくったようなのです。

その背景には、ドル・金の兌換が不可能となり、石油価格を
始めとして猛烈なインフレが進行する中、グラスステイーガル法に
よって個人預金の利息を厳格に規制をしていた銀行に対して、
証券会社が財務省証券の利率に連動する債券を細切れにして
一般大衆に売ることで個人預金者が一斉に証券会社に流れたのです。

その結果銀行が高い利息を払う為には様々な利ざやを稼ぐ必要に
迫られ、新たな金融技術が発展したのです。

その後、高度なデリバテイブ商品を取り扱う銀行が相次ぎます。
名門投資銀行であったモルガン・スタンレーも投資基準以下の債券の
取り扱い、RJRナビスコのLBOといったM&Aに伴う巨額のリスクを取り、
利益を取る取引、そしてデリバテイブ商品の販売へと踏み込んでいきました。

フランク・パートノイさんの「大破局」では、例えばアメリカ政府系
機関発行による外国為替の商品を組み込んだ債券を開発し、売ることで、
投資銀行が手数料を稼ぎ、顧客となる保険会社や州、一般企業が時として
莫大な損失を蒙ったことなどが記述されています。

その後のサブプライムローンの際、返済能力のない個人にローンを貸し付け
それを証券化して、投資家に売ったため、延滞率が増加した2007年には
債券を購入した世界の金融機関で信用収縮の連鎖が起こったのは
皆さんご存知の通りです。

一方、大野 克人さんが書いた「金融技術革命未だ成らず」では、
リスク計量・管理概念がデリバテイブ等の新金融商品に選考して
確立されていれば、混乱がなかったのではないかと解説しています。

つまり、市場変動が激しくなり、そのリスクを認識し、管理する発想が
先行すれば原資産や現取引に手をつけずに、リスク管理のために
リスク移転をする手段が求められ、その結果としてデリバテイブ取引や
証券化取引、保険商品の拡充に繋がったはずだと語っています。

この順序が逆となり、金融自由化の強欲の中から数々の新商品が
生み出される歴史となったのだと説明しています。

大野さんは、現在の日本の金融機関がこうしたリスクを管理する能力が
未だに弱いと指摘しています。また、数理・データ分析を基礎とした
資産運用も十分でないことを指摘しています。

その結果として、日本の金融資産のうち、対外証券投資は5%程度であり、
本来国際分散投資によって投資家がリスクを軽減できることが
知られているにもかかわらず、国内に偏ってしまっていることを
指摘しています。

グローバルな市場のおかげで戦後の繁栄を築くことが出来た日本が
1990年代にはグローバルな発想と戦略を欠く悲劇を生んだ。グローバルな発想、
戦略とその実行力を持った人材を育成できないまま、縮み思考の旧体制に
仕切られたムラ社会・日本の80年代後半からの悲劇の原因ではなかったか。
というのが大野さんの主張です。

私は金融技術がいかに発展しようとも、金融業が様々なリスクを
全て相互的に管理することが難しいのではないかと思います。

例えば、信用リスクを図る指標がアメリカ等の先進国寄りに見えます。
Moody’sの格付けを見ると、アメリカ、欧米、日本等の金融機関は
AA以上が多く、中国は、A、ベトナム等はB以下です。

では本当に中国工商銀行の経営の健全性はCiti Bankより低いでしょうか。
統計は過去の事実から類推することからしても、将来を見通すことは
出来ません。

金融機関は確かに様々な企業、市場との関わり合いの中で、
様々な情報を得る立場にいるのでしょうが、果たしてリスクを
取って海外に出て行けるのか。

これは金融技術の問題ではなく、経済、経営に関する感度の問題
ではないかと私は感じます。

その点自分の判断でお金を動かす個人や企業の方が、海外投資にも
積極的になれるのではないかと感じました。

2009/08/24