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知者不言、言者不知(村上悠悠)

第20回 守られていたのね、私たち

10年近く前にアメリカのどこだったか、
大企業の消費者向けのヘルプデスクの
ベテラン社員がリストラされることの記事が出てた。

彼女は20年以上働いてる人で、対応に長けた優秀な社員で、
「こんな優秀な人材をリストラするなんて考えられない」
という抗議に対しての企業側の答えが、
「でも、彼女の給料はフィリピン人の8倍だ。
会社としては彼女の替わりに
8人のフィリピン人を雇う方を選ぶ。」
というようなものだった。

その新聞記事を読んで私は思った、
このことは英語が母語の国だから起こるんだなぁ、
アメリカだったらフィリピン、
イギリスだったらインドで探せば、
いっぱい英語できる人いるもんなぁ、
なんて対岸の火事風に思ってた。

そして、7年くらい前だったろうか、
我が家はデルのパソコンに買い換えた。
ある日、ヘルプデスクに電話すると、
そこそこ流暢な日本語なんだけど
明らかに日本語を母語としない人が電話に出た。
私のトラブルは彼女の手に負えなくて、
上司らしき人物に替わった。今度は日本人だった。
そして私のトラブルを解決する術を教えてくれた。

私はデルの横浜の電話番号に電話してたけど、
それは大連かどこかにあるデルのヘルプデスクに
転送される仕組みだったのだろうか。
パソコンを使った電話だったら、
世界中どこでも電話料金は3分10円だもんなぁ、なんて思った。

なるほど日本語は言語としては難しいものかもしれないけど、
パソコンに関しては確かに一語一意がほとんどだから、
末端の対応は割りと簡単に出来るよなぁ、と思った。
そして、その時、やっと私にもわかった。
そうか、日本人だからって安穏としてたら、仕事はなくなっちゃうんだ!って。

12年位前、マンモス大学の国際交流センターでバイトしてた時に、
400人くらいの留学生がいた。
8割以上がアジア系だった。
中でも中国と韓国がダントツに多かった。
その時、すっごく優秀な中国人の女子学生が
イトーヨーカドーでアルバイトしてたけど、お掃除の仕事だった。
経営学部の成績がほとんどAという優秀さだったけど、
当時の日本では外人にレジなどお金に関わる仕事はさせない、ということだった。
その時、私はその理不尽さに怒りを覚えた。

そうやって規制することが
ボンクラな日本人にも労働の場を与えてくれて
自分たちが守られていたことに、その時の私は気付かないマヌケでした。

暦が2000年を越えた頃から、
ヨーカドーに「金」さんや「楊」さんの名札をしたレジ係が増えてきて、
かわりに、見合う仕事が見つからない日本人の若者や女性たちが多くなってきたようだ。

つまりはヨーカドーだけでなく
日本中のいろんなオフィスや工場で
広がっていってたんだろう。

2008/08/19