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宝船 巨龍にかける 夢無限大(森綾子)

第7回 『失楽園』を日本語で読む

今回は、株のお話はしばしお休み、
中国人女子大学生、らんらんさん(仮名)のお話です。

らんらんさんとは、今年4月、北京で知り合いました。
彼女は親元を離れ、北京で日本語を学ぶ4年生。
大変な努力家で、とても上手に日本語を話します。

頑張っていつか来日するのではないかと思っていたところ、
なんと先日、大変優秀な成績を修めたため、
日本への研修生に選ばれ、
2週間の予定で、京都や広島、東京などを訪れるとの連絡があり、
半年振りに東京で再会したのです。

聞けば、行きたい所、買いたい物は色々あります。
本郷の東京大学を見たい。
国会や霞ヶ関、皇居周辺も見たい。
渋谷のハチ公も見たい。
秋葉原に行って、電子辞書かデジカメを買いたい。
しかし、どうしても時間が捻り出せません。

結局、3時間ほどのフリータイムを利用して、
明治神宮と原宿界隈、渋谷のNHKを駆け足で回ったのです。

NHKでは、ちょうど大河ドラマ『義経』を展示中でした。
義経の衣装を羽織って写真を撮るサービスもあり、
らんらんさんは、義経の衣装を着けて大喜び。
主人公役「滝沢秀明」の大ファンだったのです。
それどころか、日本のドラマ情報にもかなり詳しい。

「私、中国で『魔女の条件』(*注)をDVDで見ました」
「だから松嶋菜々子と滝沢秀明を知っています」
「DVDは音声日本語、中国語字幕です」
「紅白歌合戦もDVDで見ました」

また、模擬スタジオがあり、
そこで一般人がアナウンサーに扮し
ニュースや天気予報原稿を読むコーナーがあり、
ぶっつけ本番でもスラスラと読みこなします。

さらに、日本語の小説を読むのが好きとのこと。
少し驚いて、どの作家を読むのか聞くと、

「渡辺淳一・・・」

かなり驚いて、何を読んだのか聞くと、

「失楽園・・・」

えっ、渡辺淳一の『失楽園』を日本語で読む?!

私にとって、らんらんさんとの会話は驚きの連続でした。
いったい、何に?

滝沢秀明に?
『魔女の条件』に?(*注)
渡辺淳一の『失楽園』に?
それとも「中国の大学生」や「らんらんさん」に対して、
私が勝手に抱いていたイメージとのギャップに?

私たち日本人の多くはきっと
中国の極めて小さな一面しか見えていないのでしょう。
皆の知識をあちこちから掻き集めても、
中国というパズルはあまりにも大き過ぎて、
なかなか完成しそうにありません。
まさに、群盲象を評す、といったところでしょうか。

別れ際、らんらんさんは私に可愛らしい袋を渡してくれました。
中国からのお土産です。
彼女に言われて袋を開けると中には壁飾り、
そこには墨で書かれた文字が。
 
 「一生富有」

ある種のお守りでしょうか、
私が一生涯豊かでいられる、の意味なのだそうです。
胸が熱くなりました。
一生涯豊かでいられる・・・ならばそれは、
私かららんらんさんへの願いでもあるわけです。

(*注 『魔女の条件』
女性教師と男子高校生の恋愛を描いたドラマ。
松嶋菜々子、滝沢秀明出演。1999年作。)

2005/09/26