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道連れは無敵の相棒(湖津園立治)

第23回 蒼い時 −終−

鳥インフルエンザに感染して死亡した人は
もう既に70名を超えているそうだ
致死率が50%にも及ぶというから心配だ
もし大流行するようなことがあれば
情報に乏しく、かつ衛生状態のよくない地域に
より多くの犠牲者が生まれることになるだろう
13億人を擁する中国はまだそのほとんどが貧しい人々である
何の罪もない大勢の人達が病気や死への不安に苦しむのは誠に辛い
この恐ろしい病気が蔓延することがないよう祈らずにはいられない



派遣研究先の大学の恩師に紹介され
データ解析技術のシンポジウムに招かれた時のことだ
活用事例研究発表ということで
私は水需要予測の研究成果を披露した
終了後、主催団体の関係者から話を聞くことができた

「活用事例の話を聞いて参考にしたいと
毎年出席を希望する企業関係者はとても多いのですが
事例の発表を依頼してもなかなか引き受けてくれないんですよ
企業秘密が外部に漏れることに神経質になっているんですね
その点、湖津園さんはいいですよね、公的機関の方だから
期待していますんで、今後ともよろしくお願いします」

なるほど、一般の企業にしてみれば
他社からアイディアを盗みたいが
自社の秘密が漏れては困るというわけだ
だが、自治体のデータは原則公開が基本になっている
水道事業は公益事業の上、独占事業でもあるので
競争相手に出し抜かれることもない
それに幸いお世話になった大学も協力の継続を申し出てくれている
大学は教育機関であるから研究費用を請求されることもない
自分なりに産学協同を実現しようとその時思った

水道局で工事を担当する職員と情報システムのメーカー技術者とでは
考え方に開きが有りすぎてなかなか話がまとまらないし誤解もよく生じる
公務員はただでさえコスト意識に乏しいと言われているのに
ITの最新技術に疎いとあっては高い買い物をさせられるのがオチである
県には職員提案制度というものがあって、優秀な提案は表彰されて
その提案を実現するよう関係部署は対応する決まりとなっている
私は、県の情報システム部門を強化し、メーカーと工事設計者との間に立って
コーディーネーターの役割を果たす人材を育成するよう意見書を提出した
その他、機会を見つけては自分の意見を述べ、組織改正の必要性まで訴えたが
一介の職員が組織再編の話をするもんじゃないとたしなめられたし
上層部からは相手にされなかった

そうこうしているうちに、ダム管理事務所へ転勤になった
後を引き継ぐ者がいないため、大学との関係も疎遠になってしまい
研究機関と連帯し、新しい業務のあり方を実現するという私の野望は夢に終わった

・・・

今にして思えば、ごく当たり前のことだった
誰だって各々の立場で合理的な行動をする
請負業者と対立するよりも
いい関係にあれば仕事はやりやすい
真面目にやろうと手を抜こうと、もらえる給料が同じなら
前例のない新しい試みはできれば避けたいし
一銭の得にもならないことを熱心にするわけもない

社会正義を訴えたところで世の中はなかなか動かない
圧力がかかって必要に迫られないと
組織というものは改革できないものなのだろう
独りの人間の意見で変わるほど単純にはできていないものなのだ
そう悟るようになった

青臭い万年青年もこれで少しは大人になったわけだ

街角

街角

2006/02/25