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道連れは無敵の相棒(湖津園立治)
第21回 蒼い時 −7−
1月29日、新しい年が幕を開けた
旧暦を祝う中国では年越しを意味する過年(グオニエン)が
一年で一番大事な行事なのだ
どっちを向いても花火の打ち上げと爆竹の爆発でにぎやかだ
街全体がけたたましい爆音と火薬の臭いに包まれた
帰省ラッシュで約6億8000万人の人達が
長距離バスなどで故郷に帰ったそうだ
国土の広さといい、人口の多さといい
やはり中国は桁違いだ
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私が研究成果をまとめて
国際ロジスティクス学会に論文を発表した頃
送・配水運用システム更新工事の準備が進められていた
水道局の本局が担当する工事だったが
出先機関である浄水場からも担当者が
検討会や工事の打合せなどに参加し
工事の詳細な仕様が決められていった
私も水運用課の代表として意見をする立場にあった
工事はコンピューターのリプレイスとともに
運用支援、管理支援機能の付加が大きな目玉となっていた
とりわけ水需要の予測をして運用の計画をたてる機能が
職員達の間で高い関心を集めていた
この運用支援機能が導入されれば職員の負担は軽減されるに違いなかった
しかし、工事を受注したメーカー側は
「ニューラルネット」という新しい技術について
その先進性や有効性をしきりに説明していたが
眉唾物であることが私にはすぐ分かった
「ニューラルネットは一頃とても流行った研究だが
脳の神経細胞の処理を真似て複雑な演算を繰り返したとしても
有効な結果が得られるとは限らないことが分かってきたので
最近は研究事例は減ってきている」と教授から聞いていた
それにメーカー側から過去データの検証の話が一つもなかったのだ
どんな予測方法を採用するにしても
過去データを利用することに変わりはないのだから
基礎的なデータ解析は欠かせない
ところが、メーカーの担当者は
最新の技術を導入すれば全てがうまくいくと思いこんでいる節がある
「いい機会だからこの際過去データを徹底的に検証して
いいものを作っていきましょう、そのために我々も精一杯協力しますよ」
私は熱心に働きかけたがメーカーの担当者は応えてくれなかった
案の定、メーカーの提示した仕様にはおかしな点がいくつもあった
根本的な間違いを指摘すると、メーカーの担当者は
「ニューラルネットなら問題ない」の一点張りで
全く話がかみ合わなかった
これでは失敗するのは目に見えている
大学で研究している時、データの扱い方を間違えて何度も失敗したから
私にはデータ解析の重要性が痛いほどよく分かっている
工事が間違った方向に進んでいくのを食い止めるのは
私に課せられた使命だと考えたので
メーカー担当者とは何度も喧嘩をした
会議の席上には、本局の課長や浄水場の部長や課長なども席を並べていたが
ちょっと難しい技術的な話になると皆知らんぷり
孤軍奮闘の戦いだった
結局再三の警告も虚しく工事は終わってしまった
メーカー側は予測精度を上げるために
最適な変数設定をしたといっているが
その結果、平日の晴れの日はいい精度だが
雨の日や休日の予測は惨憺たるものだった
何のために予測を行うのかといったら
それは普段と大きく異なる日に
どのくらい変わるのかを知りたいために行うのだから
大きく外れてしまっては全く使い物にならない
多額の工事費をかけて作った意味がないではないか
本局側は工事の遅ればかりを気にするし
メーカーは余計な仕事をやりたがらない
現場の職員も使えるものなら使うけど
使い物にならなければ使わないだけのこと
文句を言う人はいなかった
何億円注ぎ込もうとも誰の懐も痛まないというわけだ
役所は無謬性(むびゅうせい)といって
間違いはあり得ないとする考え方に支配されている
たとえ工事が遅れて終わっていなくても、終わったことになっているし
設計に問題があっても、問題はないということになっている
使い物にならなくっても
画期的な技術を導入して最新鋭のシステムに生まれ変わったと
マスコミには報道された
こうして公共料金は無駄遣いされていくわけである
システムの設定を変更するよう担当者に食いさがったし
本局のお偉方に問題点を説明してまわったが
どこへ行っても厄介者扱いだった
「これじゃ、ドン・キホーテみたいじゃないか.....」
屈辱感と挫折感に打ちのめされてしまった
長距離バスの発着駅
2006/01/30