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道連れは無敵の相棒(湖津園立治)

第7回 Karoushi, Jr.

中国株をやる人にとって
保険株が買いかどうかは意見の分かれるところのようだ
自家用車の購入が増えるにつれ需要も莫大になるとか、
保険商品というものは中国人の気質に合わないだとか・・・

「この人誰ですか?」
日本語の授業を開始する時、
私が持っていたファイルホルダーに写っている女性を見て
生徒さんが質問してきた
「モデル出身で女優さんです。日本では有名な人ですよ。」

かつて生命保険に加入していたので
保険会社からキャラクターグッズをたくさんもらっていた
ふと、保険のことが気になって
つい生命保険についての話をしてしまった
だが彼らには、命に保険をかけるという概念はピンと来ないらしい
早死にした時のリスクに備えるということを言いたかったのだが
逆に「過労死する人は多いですか?」と質問されてしまった

「私の父親は、過労死で死にました。」
興味があるならと、要らぬ説明をしてしまった
そう、私の父は過労死でこの世を去った

まだ私が幼かった時分の話なので
当時は過労死などという言葉はなく
原因不明の突然死という扱いだった
今なら労災の認定がされて保険金が下りていただろう

昏睡状態に陥るとどんなに揺すっても起きない
息をする度に笛でも吹いているかのように
「ピー、ピー」と甲高い音がする
その音は今でもはっきり覚えている

「どのくらい働いていましたか?」
私が朝目覚める前に出勤し、寝た後に帰宅するから
丸一日顔を合わさない日がたくさんあった
休みの日も働いていたように思う

人が死んだ時は、医師に死亡診断書を書いてもらわなければならない
原因不明の場合は死体を解剖して死因を調べる必要が出てくる
解剖などしても死んだ人は帰ってこないから
心臓麻痺かなんか適当に書いてもらって処理した...

などと余計なことまで解説してしまった
私情を挟まず淡々と述べたのだが
すっかり同情されてしまい
クラスは重苦しい雰囲気に包まれて、
中には涙ぐむ人さえいた

私はかねがね、気遣いや遠慮をしない中国人を
ドライな民族と思っていたが、それは誤解だった
彼らも同じ血の通った人間なのだ
「お気の毒ですね」と、さらりと受け流す日本人と比べると
むしろ感情は豊かなのかも知れない

保険の株が騰がるのかどうか、私には分からないし
それほど興味があるわけでもない
ただ、これ以上、過労死で死ぬ人が増えないように願っている

hasekyo.JPG

長谷川京子のファイルホルダー

2005/09/26