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中国名言と株式紀行(小林 章)

第139回 中国・天津より/中国株日記 (72)

【NO.75】中国、天津より(13)
この天津日記も今回と次回の2回で終わることになります。

その次からは「アジアで起業するための講座」へのリニューアルとなります。

そして、今回は起業のポイントとなる企業(会社法人)を考えてみます。

5月10日より1週間ほど旧友からの誘いもあり、香港に行った来ました。

香港小旅行の間に、肩肘張らずに読めるものをと『秘録 華人財閥』(元時事通信記者西原哲也著NNA社)ほか3冊程度を鞄に放り込んで出かけました。
香港の大富豪である李嘉誠氏についての評伝です。毎年発表される米フォーブス誌の世界長者番付10位以内の常連で、ちなみに2013年の番付では8位とアジア地域でトップの総純資産額310億米ドル(約3兆2千550億円)で、華人財閥のトップクラスに君臨する長江実業グループを率いる李嘉誠氏ですが、何故か日本では知名度が低いのだと言います。
香港では「100ドルを使えば、5ドルは彼のポケットに入る」と言われているのです。
また、香港では、他にもヘンダーソンランドの李兆基氏や新鴻基地産の郭3兄弟やサウスチャイナ・モーニングポスト誌を抱えるケリー集団の郭鶴年氏などが米フォーブズ誌の長者番付100位以内の常連です。
他にも香港からは、新世界発展グループの鄭裕彤会長やペニンシュラホテルや中華電力を抱えるマイケル・カドゥーリー会長、ワーフ(九龍倉)の呉光正氏、マカオのカジノ王であるスタンレー・ホー氏などの名前が挙がっています。

李嘉誠氏は、自ら設立した長江実業の株式の約40%を個人で所有し、長江実業は時価総額で世界第3位のデベロッパーです。李嘉誠氏傘下のハチソン・ワンポアをはじめとする上場企業だけで13社を所有し、グループ全体で52カ国30万人以上の従業員を抱えています。

香港は、2012年の世界162カ国・地域中で世界経済自由度指数ランキング(米ヘリテージ財団とウォールストリートジャーナルが共同で毎年発表)で過去18年連続で1位の座をキープしています。スコアは89-90点で、シンガポールと長年首位を争っています。ちなみに、日本の順位は22位です。また、中国は138位あたりです。
この報告の中で、香港は「世界で最も競争力のある金融、商業中心地の一つ」とし、「財産権の効果的な保護と、法の支配を守るための強力なサポートを提供するなど、その高度な法的枠組みは、ダイナミックな都市経済の強さの礎であり続けている」と、高く評価されています。
また、同2位の都市国家であるシンガポールについても、政府による規制の少なさや税金の低さ、活発な貿易と投資、開放的な経済政策などが高く評価され、こちらも18年連続で2位の座を守っています。
このランキングで毎年香港とシンガポールはスコアを少しづつでも上げているのに、逆に日本はスコアを落としています。

こうした経済活動の自由度を考えれば、いくらお隣の中国リスクを考え合わせても、香港は貿易や金融資本市場としての充実度や自由度、海外からの投資活動への参入には魅力があります。
様々な面で、香港での企業活動には制約が少なく、利益の効率が追求できる点で、効率的でスピード感のあるビジネスが展開できる場所です。

上記の読んだ本にも「香港は貿易や投資といった外部と関わる経済では世界一の自由競争社会だが、内部で完結する経済では非常に閉鎖的社会だといえる」(P282)との指摘もあり、財閥グループ同士による「カルテル」といってよいような分野(スーパーマーケットや港湾サービス、電力・エネルギー分野など)が多数存在しており、中華圏の人間関係を基礎にした「内部完結」型の経済も併存しているということでしょう。やはり、香港内では所得の中間層が浸食されて貧富の差は確実に拡大しているといいます。
しかし、香港に暮らす一般の人にそうした影響がマイナスイメージを与えているとは思えません。何時か自分たちもチャンスを得たいという気風は健在です。
しかし、ここ香港を生活の拠点ではなく、中国や東アジアへの投資や貿易の企業拠点と考えれば好立地であることは否定しようはないでしょう。

さて、李嘉誠氏の評伝のほうに戻ります。

「私が食べるリンゴの味は、あなた方が食べるリンゴの味と同じではない。子供のころ私は果物屋を通るたび、高価で買えないリンゴにあこがれていたからだ。」

李嘉誠氏にとって、アヘン売買で莫大な財を築いた巨大英資財閥シャーディーンのホンコンランドの事業は幼時に欲しくても食べれなかった「リンゴの味」のような特別な価値に映っていたのではないではないでしょうか。李嘉誠氏はホンコンランドの買収には巧妙な企みに阻まれて失敗しましたし、名門英資財閥ワーフの買収にも名乗りを上げましたが同胞の包玉剛氏に禅譲することになります。、その代わりに同じく優良資産を多く抱えていた大企業グループの英資ハチソン・ワンポアの買収には成功することになります。
1997年の中国への香港返還を境に後ろ盾が変わると共に国力の勢いの差がかつての英資から中華圏の財閥の台頭に勢いを与えました。李氏率いる長江実業も例外ではなく、巨大英資の持つ優良資産には交換しがたいかつての栄華と栄光を取り戻そうとする必死の営為にも映ります。

李嘉誠氏の述べた「リンゴの味」とは「交換不可能財」そのものといってよいかも知れません。
市場経済が隅々まで進行していき、人々が豊かになり、お金で買える「交換可能消費財」が増えるにつれて、お金では買えない「交換不可能財」を減少させるどころか、逆に皮肉なことに増加させることになることが知られています。即ち、各個人は豊かになればなるほど、お金では交換できない自分にとって特別に重要な「交換不可能財」を、他者が買い取ろうとは考えなくなるほど極端に高く評価してしまうようになるのです。

この原理は、例えば国際問題である臓器売買を考えてみれば、理解しやすくなります。
開発途上国や紛争の頻発する最貧国では市場経済への障壁が顕著で、貧困が理由で臓器が売却の対象と見なされます。逆に市場経済の進んだ先進国では富裕者が多いので臓器の買い手は現れますが、個々人の臓器はモラルの醸成も行き渡り一般に「交換不可能財」と見なされ、売り手が現れないために市場障壁の高い最貧国の臓器が取引の対象として認知されているのです。開発途上国と最貧国で市場経済化を妨げる開発援助や経済障壁が取り除かれて、正常な市場経済化が進み、多くの雇用が生まれ人々が豊かになってくれば、はじめて先進国との経済格差が徐々に縮まり、臓器売買自体の旨味が急速に消滅していき、臓器は「交換不可能財」のカテゴリーに分類されていくようになっていきます。すなわち、手短に言ってしまえば、最貧国を豊かにしてしまえば臓器売買は消滅の方向に向かいます。

説明が脇道にそれ、且つくどくなってしまいましたが、李嘉誠氏は大富豪になった今もお金では交換できない自らの過去の貧困時代の思い出を大切に心に刻み、修業時代の発見や覚醒に忠実に生きているように見えるからです。
このことは、私には今回新たな発見でした。
もう一つの李氏の目立たないエピソードですが、彼が愛用する腕時計は日本ブランドの時計メーカーのものだそうで、ある時インタビュー記者が発見し、その事実を知った日本メーカーが李氏に特別製の同型腕時計をプレゼントして喜ばれたそうです。彼は若い時から、スイス製の高級時計ではなく、その日本製の時計への憧れがあったのです。
こうしたエピソードに接するたびに思うのは、まるで李嘉誠氏はお金で交換できない過去の思い出に包まれて生きているように思われます。

「普通の人は、成功する秘訣が書かれている秘伝の書を探し続けて一生を終える。だが成功する人は、自分自身の書を編集しようとする」という李嘉誠氏の言葉があります。
「成功する人」とは、もちろん李氏自身のことですが、自分自身の書を書くためのストーリーをすでに李氏自身が人生の早い段階から準備してもっていた、ということを言わんとしています。

「市場が穏やかな時には飽くなき追求をし、市場が発展している時には冷静に行動する。」とは、また李嘉誠氏の別の言葉です。投資のタイミングについて語った有名な言葉です。
正確には、前半の言葉には訂正と捕捉が必要です。
すなわち、李氏は「市場の穏やかな時」ではなく、市場全体が沈んでいる時から穏やかな反転の兆しが現れるようになる時までに猛然と投資の「飽くなき追求」をしています。
李氏は1960年代までに「香港フラワー」で私財を蓄え、60年代に入って製造業が衰退すると自己資金で工場用不動産を買い漁るようになり、デベロッパー業に転身して、大胆な投資で香港の都市再開発の波に上手く乗ります。そして、景気の下降局面や優良資産を保有する企業の業績不振に乗じて優良な英資の企業買収を重ねていきます。また個人消費の拡大に併せて流通やインフラ、エネルギー関連、通信の自由化に併せて映像や通信・携帯電話サービスと時代の要請に応じて業容・業態を拡大し変化させていきます。

たとえば、李氏の常習的な株式市場での自社株買い行動がその典型です。
景気や経済の変調に株式市場が見舞われた時、それが李氏のいつもの定番の手法ですが、李氏は個人として、すかさず市場から数十万-数百万株もの大量の自社株買いを実施してきました。李氏は、実業には殊の外に熱心で長江実業の業績見通しはつぶさに把握・捕捉されているはずで、絶対の自信を持って自社株に投資が出来ます。まるでインサイダー取引ですが、香港株式市場ではこれが公然と認められています。李嘉誠氏に限らず、多くの香港系の富豪も右に倣えで、大量の自社株買いを行ってきました。この手法で李氏らは、比較的リスクを取らずに市場から度々大きなキャピタルゲインを得てきたのです。しかも香港ではキャピタルゲインには課税がありません。もちろん株式配当にも税金はないのです。香港の株式市場は規制の少ない完全なオープンマーケットです。

李嘉誠氏と同様に、香港で知られる株式投資で成功してきたのがヘンダーソンランドの李兆基氏です。彼は著名なデベロッパーで、社会インフラ分野のM&Aなどでも事業を盤石なものとしていることで知られますが、株式投資でも大成功を収めてきました。
最近、その李兆基氏の株式市場での話題は数ありますが、そのなかでもやはり大量の自社株買いが注目に値します。つい最近の話題から一例を取り上げてみます。

この3月26日に恒基兆業地産(00012)は2012年12月本決算で17.60%の増益が発表されました。その結果、配当金額と配当スケジュールが発表されています。内容は現金配当は1株あたり0.74HKドル、株式分割(無償交付)が10株につき1株で、権利落ち日は13年6月5日でした。
自社の決算発表を受けて、李兆基氏は直後の3月26日から4月5日の間に1223.9万株を追加取得しています。それまでに自社株の個人大株主として62.64%もの持ち株がありましたが、63.2%に持ち株比率を増やしています。
その後も、4月8日から5月30日の間に記録を数えただけで30回以上の自社株買いを実施して約2874万株を取得し、持ち株比率も64.55%となっています。
李氏は3月26日の決算発表から、猛然と自社株を買い進み、市場から約4098万株弱を約21.94億香港ドル(約285億円)で取得したと推測されます。

李氏はこの時期の1株53.5香港ドル近辺の自社株価を割安と見ていたからでしょうし、今の時期の香港不動産価格の軟調が近日修正されるだろうとの見込みもあったのでしょうが、時期的に見て別の意図も感じられます。
それは、自社の3月26日の決算発表日から6月5日の株主配当の権利落ち日までの間に自社株の取得が行われたからです。
李氏はこの間の自社株取得によって、香港では配当に課税がありませんので現金配当で3032万香港ドル(約3.94億円)と約409.8万株(権利落ち日後の株価47.5香港ドルで仮に換算すれば1.95億香港ドル=約25.3億円)を、従来の持ち株のほかに手にする計算となります。この自社株買いで、配当実施日の7月15日には概算合計で約2.25億香港ドル(約29.2億円強)が労せずして李氏の手に転がり込み、投資合計額に対してリターン利回り率は10.2%弱でした。
開示されている情報を元に、李兆基氏の株式市場を活用した蓄財のスキームの一端を解き明かしてみました。こうした投資手法が、香港市場ルールでは合法で認められているために、優良企業を抱える大富豪は益々市場での優位を盤石なものにしつつ労せず稼ぐことも出来るのです。
こうした李兆基氏の株式市場を活用して得られた原資は、現在の彼の株投資への強気の現れだと受け取ることが出来ます。再投資の原資を得るために彼は市場から合法に、かつ堅実に集めているとも言えるでしょう。最近彼は「スーパーマン」と呼ばれる偉大なライバル李嘉誠氏のお株を奪うように「香港のバフェット」というあだ名が定着しています。
また、彼ら大富豪達は、大きく稼ぐ一方、香港では自らの「基金」を設立して福祉や学校設立、研究支援など派手な寄付や支援活動も同時に行っており、むしろそちらの方でのメディアへの露出が多くなっています。儲けと慈善活動が彼らの尊敬の証なのです。
また、李氏は自らの所有するグループ企業からの役員報酬はほぼゼロなのだそうです。自らの才覚でマーケットから自らの報酬を得ているとも言えるのです。

ひょっとすると、決算粉飾と虚偽記載、株価吊り上げで日本で厳しく斬罪され解体されることになったホリエモンのライブドアも法の穴をかいくぐるような際どい取引であっても法務の体裁は整えられていたのですから、検察が指摘する粉飾や偽計も決算の修正申告と軽微な罰則でも許されたはずです。投資家を偽る悪質な損失隠しや実態のない架空な数字だけの粉飾が為されたわけでもありませんでした。頻繁に行われたM&Aも買収企業関連の売上への付け替え等も、結局は好調な株価に基づく自社株食いによるものであったのです。手元にあるか予定の立った資金を付け替えてライブドア自体を粉飾したい意図はあったでしょうが、ライブドアからの資金の流出や秘匿が目的ではありませんでした。
ここ香港を舞台にしていればなんの問題もなかったのかも知れません。
私は遣りすぎ目立ちすぎのライブドアを庇う気は毛頭ありませんが、事件の検証の記録を読めば気付かされることがあります。たまたまこうした著作も2冊帯同していました。

日本の経済事案に於ける司法判断では、乏しい物的証拠よりも犯罪性の意図の有無や状況証拠が重視されますが、事実に対する被疑者側の意図や実態など解釈は幾通りでも付けられます。
検察のいう事実関係とは相関関係(そのように見える)のようなものです。科学的に証明できる因果関係ではないのです。被疑者側は検察に対して相対的に弱者ですから検察の示す事実関係をどうかと言われれば、本人は意図も無く不本意であっても、そうとも取れるから大筋で認めるしかありません。もっとも、ホリエモンだけは認めませんでしたが。
脱法性についても法務の観点で認定された第三者機関が認めれば、法律上はクリアな筈ですが、日本の司法では「実態」がどうであったかによって、違法性が高いと「みなされる」のです。その「意図」についても日頃の何気ない発言や行動によって、どういう思想背景があるのかなどで関連と有無が判断されるなど検察は犯罪性の立証のために相関的な関係の罠に持ち込もうとし、司法は検察の筋書きを容認する確率が高くなっています。詐欺や贈収賄事件と同様の手法です。

日本の検察は社会正義の観点からポピュリズムに訴え、理想の誰にも分かり易い筋書きを描こうとしたのかも知れませんが、逆に日本の司法の遅れた姿と経済から置いて行かれまいとする焦りを感じます。現実のグローバル化する市場経済の要請は脱法すれすれでも複雑な裁定取引や出し抜いたり出し抜かれたりの市場慣行が公然化しており、遅れた司法の側の描く理想は風車に猛然と向かうドンキホーテのような前近代的で、そのぶん知識集積型機関のハッキリした焦りも感じられ、出しゃばろうとして、逆に経済活動のグローバル化の現実とは相い入れない対局面を見せてしまったようです。
しかし、司法権が権力の強権を振りかざして、生きた伸び盛りの上場企業を陥れ、社会的な制裁を加え、株主の面前で葬り去ったことは、ライブドアの約20万人にも及ぶ個人株主を欺き、経済的な影響を考慮に入れず一方的な打撃を与えたと言えないのでしょうか。ライブドア事件以前に、かつてのリクルート事件にしても上場企業が絡む大型収賄事件にしても生きた企業が潰された例はありませんでした。粉飾経理の果ての倒産企業に特捜が踏み込んだという話もありました。しかし、こんなことが公然と自由経済を掲げる日本で行われたことは、国策捜査=経済統制を許す国家とみなされても不思議ではありません。こうした国をグローバル企業は立地の選択肢に積極的に加えるでしょうか。

こう見ると、日本の社会システムはまだまだムラ社会的な閉鎖性を有し、契約と経済合理性に貫かれた仕組みになっていないことが分かります。こうしたことも経済活動の自由度ランキングに影響しているものと思われます。日本のランクが低い原因は様々にありますが、商売の慣習や制度的制約、司法制度なども障害となりえます。
香港の人はライブドア事件がどこに犯罪性や違法性があるのか理解できないと言います。
「それって、日本の特殊性か」と聞き返されてしまいます。

邱永漢先生は『日本脱出のすすめ』のなかで「会社をシェルター」としてチームワークを組んで生き残るために海外へ打って出るべきだ、と述べられています。
会社はいかなる国に於いても利益を生み出すための合法的な活動を許された「法人」という「みなし人格」です。個人で取り組みにくいことでも「法人」であれば許容される優位な立場が担保されています。「会社をシェルター」とするとはそうしたことを云わんとしているのだと思います。

「みなし人格」である会社法人は、株主という個人が所有者です。従って、会社の目的である利益の追求の結果である株主への配当は、本来は所有者である個人(株主)が自らの他の所得と合算して課税されればよいはずです。ところが実際はそうなっていません。会社の利益には法人税が課されるからです。会社の利益は本来所有者である株主のものなのに、株主より先に利益の中から税金を徴収してしまうやり方は横暴に思えます。確かに会社法人は国家に属しますから、何らかの共益費は支払うべきでしょう。例えば1社当たり一律平米当たり所場代(家賃のようなもの)として年間いくらとかであれば納得できます。
法人税の課税根拠は個人(株主)が各々支払うべき税金を予め会社に払わせようとするものです。それが法人税制度です。それをまた個人(株主)からも配当金の源泉徴収や総合課税で徴収するのは明らかに二重課税です。

国家にとっての、利益追求を目的とする会社法人の存在意義は、その国の経済活動に有益な効果をもたらすということです。その最大の意義は、雇用を生み出すということです。
雇用は国家の社会福祉負担を減らし、新たな税収を生みます。さらに産業による付加価値という新たな富を生み出します。ですから国家は企業のために教育訓練に補助金を出すのです。
企業の誘致は新たな雇用と付加価値の創造でほぼ相殺できるはずなのです。本来、企業は株主のものですから、企業の国家への貢献度を考えれば、法人税分は株主に返却して国は所場代(家賃)と共益費の徴収に切り替えるべきです。税金は個人(株主)から徴収すればよいものです。各国の法人税の軽減には十分な根拠があるのです。それは、国家間の企業引き留め競争や工作の結果ではないのです。
グローバル化に伴う多国籍企業が、株主のために利益の最大化を目的に、租税地域の選択と適正化を目指すのは、何かおかしなことや非難すべき事柄ではなく、株主のために当然取るべき義務だと理解すべきでしょう。

効率的な市場では僅かな経済上の不合理による歪みが参加者に利益をもたらしますが、その機会は一瞬にして裁定取引(アービトラージ)によって正されます。しかし、国家や体制による制度的な歪みは、軽微なものは法律改正などによって、根本的なものはその体制の転覆や崩壊によってしか正されず、一旦制度優位な立場が手にできれば比較的長期に渡って既得権として利益を享受することができるのです。こうしたマーケットの制度上の歪みも国の境界を跨げば鮮明になります。特に日本のような成熟国家が制度疲労などを理由に多くの問題を抱え込んでいます。香港などの経済自由度の高い企業活動に有利なアドバンテージを与えている地域や国々の存在が、はからずもそのことを証明しています。国家は自らを縛る規制と過剰防衛という固い殻を脱ぎ捨て、なるべく自由の身となることで呪縛から解き放たれることになります。こうした狭間に上手く企業(会社)を介して介入していくことが肝要と思われるのです。

2013.05.31

 

2013/09/30