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中国名言と株式紀行(小林 章)

第137回 中国・天津より/中国株日記 (70)

【NO.73】中国、天津より(11)
「どこで蓄財を試みるか」ということは、経済のグローバル化の時代には考慮しなければならない、大事なことの一つです。

当たり前のことですが、自分の資産は自分で守るしかありません。なんの工夫もなく他人と同じことをやっていたのでは資産を守るのはおろか、この日本においては大きな財政破綻の不安と急速な人口減少や高齢化によって、この先長期に渡り日本円の為替は下落傾向を余儀なくされ円資産の下落も避けられませんから、保有資産の目減りは必至です。
ましてや、自らの資産を守るだけでなく着実に増やしていくためには、より有利な地の利を得て、有利な資産運用法を試みることが肝要と思われます。
また、少なくとも保有資産の50-85%を円資産以外の資産に回避(リスクヘッジ)しておくことが、自らの資産を毀損被害から守る唯一の方法です。言うまでもありませんが、これからはリスクを取らないことが最大のリスクとなりうる時代を迎えるのです。

世界には、税金を免除したり低税率で国家や準国家としての体裁を整えている国や地域があります。そこをタックス・ヘイヴンとかオフショアと言ったりします。

まずは、タックス・ヘイヴン(tax haven)とは、一定の課税が著しく軽減、ないしは完全に免除される国や地域のことですが、租税回避地とも呼ばれています。
「ヘイヴン」(haven) は、英語で「避難所」の意味ですが、フランス語ではパラディ・フィスカル(paradis fiscal)と「paradis=天国、極楽」という語があてられます。
日本の法律・租税特別措置法の規定では、法人税の実効税率が20%以下となる国や地域を、事実上タックス・ヘイヴンと認定しています。

また、オフショア(Offshore)とは沖合を意味しますが、原義を拡大して「海外」の意味に使うことがあります。
オフショア金融センター(offshore financial center/centre:OFC)は、非居住者が資金調達・運用などの資金取引を自由に行える金融機関であり、タックス・ヘイブンであることが一般的とされています。

東アジアでは、シンガポールと香港がその代表です。
まず、シンガポールは、1965年のマレーシアからの分離・独立以来、国際金融センター化構想を経済発展の基本戦略の一つとしており、まず1968年のオフショア市場としてのアジアダラー市場、1984年に先物・オプションなどのデリバティブ商品の取引所としてシンガポール国際金融(SIMEX)を創設するなどの金融と貿易のハブとしての育成策を行ってきました。

かつては、「調達のシンガポール、運用の香港」と呼ばれ、資金調達はオフショア預金金利が非課税のシンガポール、資金運用は法人税率が低く、海外で発生したオフショア所得が原則非課税の香港といった傾向がありましたが、シンガポールの法人税引き下げ、香港の非居住者の外貨預金の源泉税撤廃などにより、現在、制度的な相違はほとんど見られなくなっています。しかし、外国為替や先物取引は、いまだに、シンガポールのほうが盛んで、地域的にはASEANを中心に展開しています。

シンガポールは面積が東京都23区とほぼ同じで、人口は約430万人の都市国家です。
国民一人当たりのGDPは約2万6千米ドルと、ASEAN域内では圧倒的な首位です。
また、シンガポールは、近時、資産管理センターとして評判を高めてきており、2009年グローバル金融センター指数では世界第4位となっています。また、スイスのIDM(経営開発国際研究所)発表の国別の国際競争力では2010年に1位(ちなみに香港は2位)にランクされています。この国はヘッジ・ファンドの金融ハブであり、そのプライベート・バンキング産業は毎年30%の割合で成長しているといわれています。

一方、香港は1973年の為替管理規制撤廃など、香港政庁の自由本人主義(レッセフェール)を背景に、元来、自由貿易港として貿易金融が盛んだったことが、金融センターという自然発生的な発展につながっています。
レッセフェール(laissez-faire)とは、フランス語で「なすに任せよ」の意味で、経済学用語では「政府が企業や個人の経済活動に干渉せず市場のはたらきに任せること」を指します。自由放任主義と一般に言われます。

現在、株式市場の規模やシンジケートローン(syndicate loan:借り入れ人の資金調達ニーズに対して、複数の金融機関が協調してシンジケート団を組成し、一つの融資契約書に基づき同一条件で融資を行うことをいう)実績では、香港がシンガポールに差をつけています。また、地域的には、後背に近接する成長中国の重要な中継点となっており、シンガポールとの棲み分けができています。

このような中で、シンガポールと香港はアジア諸国と比較しても相対的に健全な金融システムを維持しており、アジアの国際金融センターとしての地位が揺らぐ可能性は中長期的に見ても低いと予想されます。しかし、両者とも人口や土地が限られており、国内市場の拡大はさほど見込めないだけに、国際金融センターとしての発展基盤を、アジア・太平洋地域に求めざるを得ないという構図は今後も変わっていません。

グローバルな市場経済の進展とネットなど情報通信技術の普及で一般投資家の投資機会や選択手段は格段に広がってきています。なかでもマネーの動きに代表される金融分野はボーダーレス化が大きく進み、一部の機関投資家や大手金融機関に独占されてきた市場や取引が一般投資家にも開放されてきて、規制緩和が一番進んでいる分野です。

そして、マネーの次に企業の多国籍化が進んでいます。
企業の目的は利潤を最大化して、その果実を株主に還元することが要請されています。利益の増大は売上の拡大によってもたらされますが、同時に人員削減や経費の削減などリストラによってももたらされます。さらに、もう一つの方法である税金の削減によってもなし得ることが意識されてきています。
企業グループの多国籍企業化は、全体の税負担を最小限化するための最適な納税地の選択される時代にも移ってきているのです。
スウェーデン等北欧発のイケアやエリクソン、テトラパックなどの多国籍企業の発祥・隆盛の原因を作ったのは、かつての北欧諸国の企業に対する高負担税制だといわれています。結局、北欧諸国の法人税等の重課税制度は早晩改められることになりました。国家にとっての国民や企業に対する重税政策は、体力のあるスタースポーツ選手や企業の流出を招き、残されたボリューム層の住民への負担を強いる結果となることが分かっているからです。
恐らく合法的に税負担を軽減できるのであれば、企業にとっては人材を含む資産の切り売りによるリストラよりも遙かに痛みが伴わないはずなのです。世界で戦う有望企業グループにとっては、税負担の最小化と納税地の最適化という節税スキームが益々重要になってきています。

こうしたマネーのボーダーレス化や企業グループの多国籍化の次に、やってくるのが、個人の資産運用の最適地化です。さらに、個人の国籍離脱にまで発展していくのかも知れません。カネに続いてモノ、最後に経済難民ではなく経済的に自由を得たヒトが自由意志によって国境を越えて移動する世界が目前に迫っています。国境の境界は地方間の移動のように、ビザなしに自由に移動や居住が許されるべき時代に差しかかっているのです。

個人投資家が大企業並みのパフォーマンスを実現し、大手企業とともに主戦場の一角に加わるというような事態も夢物語ではなくなりつつあります。
個人でも、起業スピリットと強いマインドさえ持ち合わせていれば、各地各国の現地の企業というシェルターを上手く利用することで、バーチャルな投資行為が現実のお金や物や人を動かすような事態を想定できる時代となってきたのです。
これを実現するためには、上記のような規制の少ないか存在しないタックス・ヘイヴンやオフショアを上手に活用する必要があります。
そして、成長軌道に乗った中国や成長センターとなりつつある東アジアへの拠点として最適な条件を備え、そのポジションにあるのがシンガポールや香港だということになるでしょう。

ここでは、少し香港について触れてみます。
この香港を投資拠点に選ぶ理由としては、大きく5点が上げられます。

1)インターナショナル・マーケットとしてのインフラが整っている。
香港は世界各地からさまざまなマネーが集まってきます。タックスヘイブンとしての存在意義も重要となっています。自由な資本市場としての160年以上の歴史があります。
例えば、金融機関等の送金等の規制が無く、他国からの海外マネーには税金がかからず、手数料等も最低レベルとなっています。各種の管理料や手続き料などのコストが安価です。
金融分野の規制が特に緩く、GDPに占める金融分野の貢献は11-15%にもなります。
また、香港はいまや最大の「人民元オフショア市場」となっています。人民元建てをはじめ、人民元に関連する多種多様な金融商品の取扱がなされています。
こうした交易や金融の市場としてのインフラがしっかりしているのです。
香港では、人民元金融商品のみならず、各国通貨による預金、株式、債券、商品、リート、デリバティブなど何でも取引できます。規制やコストレベルの低いグローバル・マーッケトでもあるのです。

2)後背地の要=中継地としての発展する中国へのアクセス窓口となっている。
後背地の中国は、まだまだ10-20年の間に高成長が持続する大きなインフラと条件をかかえています。こうした巨大な成長エンジンは滅多にはありません。
また、高成長が続いているにも関わらず、金融や社会制度、政治制度、民政策などに大きな規制を公然と設けている大国です。
経済的裁定は容易に正される種類のモノですが、国の定める規制や制度の歪みは容易には正される種類のものではありません。実はここに大きなチャンスが厳然として存在しているのです。この落差を上手く利用しない手はないでしょう。中国に投資するということは、一石二鳥を狙えるまたとないチャンスを掴むということと同義なのです。
その大きな穿たれている穴=公然のアクセス窓口が香港の役割となっています。

3)水の流れを堰き止めないという発想が貫かれている。
グレーターチャイナと呼ばれる中華圏では風水がことのほか重んじられています。
また、よく中国にとって香港は「金の卵を産む鶏」と形容されます。
それは、1997年の香港の中国返還によっても証明されました。すなわち「中国の香港化」が短期間で国の隅々にまで組み込まれたからです。中国の新制度や生活習慣で、新しいと見なされるものはすべて香港からもたらされました。中国本土に行けば、容易に実感できます。
中国の覇者の歴史は、辺境から中央に迫るものが正統を継承して、そうして営々と中華は続いてきました。辺境を容易に飲み込み血肉と化すグレーターチャイナ化は、中国のグローバル化の別名でもあります。
新たな水の本流は香港から供給されており、この流れのみが正当に受け入れられています。この流れを堰き止めることは風水を無視することになります。他国からの流れは、いわば傍流で、必要に応じて汲み取られますが、あくまで正当な流れとは見なされていません。
その意味では、香港は、経済成長を続ける中国にとっての「金の卵を産む鶏」であり続けるでしょう。
私個人的には、次の中国の変化は、台湾との関係によってもたらされ、中国の台湾化によって、中国の対外開放はさらに進んでいくと思っていますが。

4)税金が安い。税負担がビジネスの障害とならない。ビジネス機会を妨げない。
個人税は15%、法人税は16.5%のみ。しかも、税金はすべて税理士を通じて処理され、税務署からは支払通知が郵送されてくるだけ。課税額は会社を通さず、自分から支払うシステムです。もし仮に不正があった場合は、税理士の資格剥奪など厳しい措置が用意されていますが、税率自体が低いため租税回避のコストの方が馬鹿にならないケースの方が多いのです。すなわち、脱税があまり問題にもなりません。交通事故にあった程度の認識になります。感覚として犯罪ですらないわけです。しかし、自己責任と契約に基づくため自由は最大限許容されている代わりに、不正には厳しい罰則が用意されています。
ときどき、香港企業の絡む巨額脱税事案がメディア報道されることがありますが、それは中国政府や軍関係や企業自体が贈収賄事件の関連する問題になっているのであり、たとえて言えば日本の有名企業が香港を舞台に行った日本国に対する脱税事案のようなものなのです。
香港では、数年前に相続税なども完全に廃止されています。
企業は、税の負担が少なく、逆に多くの純利益を残せることで、一気に有望事業には、銀行融資など間接金融に頼るのではなく、業容の拡大のための再投資により多くの余剰資金を投入できます。ビジネスの拡大を妨げないのです。企業間の不要で透明性を疑われるような株式の持ち合いなどありません。
租税コストの最適化がグローバル企業の大きな課題だと見なされるようになっています。

5)自由貿易港としての由来をもつ。
香港経済は、貿易、観光、金融、不動産の4大産業が中心となっていますが、もともとは中国との貿易の中継点として発展してきました。
欧米系からアジア系まで様々な出先機関が事務所を構え、また、後背地の中国・広州や珠海地域で生産された工業製品が世界中に輸出されています。逆に、完成品のための部品や素材が香港を経由して輸入されています。
こうした、流通・港湾・交通インフラが整備されていることで、国際ビジネスのやり易さが注目されます。欧米的な標準的な商習慣が一般化しており、英語が主要言語の一つとなっています。また、若い世代では北京語が教育現場で学習されており、英語、広東語同様に普通に通用しています。
第3国からの中国本土への直接投資よりも、香港を経由した投資と管理にリスクヘッジ的なメリットも見いだせるでしょう。

日本の敗戦処理の過程で、平等(公平)で均衡の取れた税制を軸にしたシャウプ勧告をもとに戦後の日本の国の枠組みが組み立てられてきたことに大きな問題があります。「平等で均衡の取れた」というところが最大の曲者です。米人学者の実験場にされたというべきなのですが、日本人は他国人から与えられたものを、大事に守るという義理堅い国民性がここでも見て取れます。
日本占領軍GHQは戦前の財閥のような弊害を恐れるあまり、高額所得者のような特別な突出(エッジ)を許さず、また格差を生み出さないような過度な平等原理主義によって直接税の累進制課税の税制が国の形を貫徹させてしまったのです。
社員の給与には企業に過重な税務処理までさせた上で、さらに後に保険年金の仕組みまで組み込ませてしまいました。そして、会社社会主義は蔓延(はびこ)り、社員からは自己責任と自己申告の機会を奪いました。

いまこの税制の仕組みからの呪縛により、国や企業をがんじがらめにして、制度の規制緩和を大きく歪めており、日本は税制の罠にはまり込んでしまっています。相変わらず役人は、自らの安泰のために、税制を貫徹するための制度作りにこだわります。政治家には制法権を渡すかわりに、官僚はあくまでも税制の権益を守ろうとするわけです。
いわば日本では、税金の取り立てやすい仕組みに管理の手間とコストがかかっているわけです。多くの税務署職員と組織を抱えてまで手足のように酷使して税金を取り立てさせて、汚れ仕事の果てに中央の高級官僚はその税原資を配分するところで多くの権益を得ているわけです。
日本では、役所の側の発想から、お上が税金を取りやすいような仕組み(システム)が組み立てられています。従って、簡単に経済や社会制度、役所の規制に至るまで、緩和は容易には進まないことになっています。民間であるにもかかわらず会社組織には、さまざまな税取り立てのシステムを無償で義務づけているため、自由なはずの会社の設立にも様々なハードルが設けられています。

しかし、一方「香港は誰にでもビジネスチャンスを与える街である」と言われるとおり、ビジネスチャンスをたくさん与えることが、香港自体の発展にも繋がるという発想に立っています。
すなわち、税収を上げるためには、民間の規制をなるべく無くし、民間を活性化させた方が良い。香港で安価に簡単にシェルカンパニーのような会社が作れるのは、多くの意欲あるベンチャー起業家を育て、利益を上げるようにした方が、制度の持続可能性が高まり、結果的により多くの税収をもたらしてくれるという考え方に基づいているからです。
ですから、税制は簡素で、税金も低く税理士が仲介業務を殆どこなすようになっており、税務部門は納付書の発送と納付チェック機関であり、役所と会社の負担が驚くほど軽くなっており、規制のハードルを下げ、事務手続きの簡素化と経費の合理化を同時に実現しています。これも国の課税する税率が低く、脱税や節税が殆ど問題にならないくらいに設定されているからです。
こうして、香港ではなるべく安価にかつ簡単に会社設立ができるシステムを作り上げようという発想が生まれるのです。ビジネスチャンスをたくさん与えることが、香港自体の発展にも繋がります。
ですから、世界各国から人も物もお金も吸い寄せられるように集まり、続々ニュービジネスが誕生しているのです。

こう見てくると、税制には相対的な正義しかあり得ないことがよく解ります。何も日本を初めとする先進国の税制が完璧で進んでいるわけではなく、逆に自由や平等、社会制度の簡素化、市場の効率化といった面で多くの歪んだ税制を取っていることが明白です。香港やシンガポールといったタックスヘイブンやオフショアといった国や地域の存在がそのことを改めて私たちによく理解させてくれます。
2013.04.25

 

2013/09/15