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中国名言と株式紀行(小林 章)
第134回 中国・天津より/中国株日記 (67)
【NO.70】中国、天津より(8)
田代尚機さんの『人民元投資入門』という本が3月に出ました。著者・田代さんの大変な意欲作だと感じました。
また、私にとっても、とてもタイムリーな話題の本です。
実は、私の中国株投資にとってのキッカケとなり、バイブルとなった本が3冊あります。
今まで、数ある中国株についての著書を読んで、参考としてきましたが、この3冊だけは色あせることなく、特別な私のマイ・フェイバリットであり続けています。
発刊の早い順で、まず、邱永漢著『中国株の基礎知識』(東洋経済新報社2003年11月刊)、2冊目が田代尚機著『レッド・センセーション好機到来!今こそ中国株投資』(角川SSコミュニケーションズ2006年4月刊)、3冊目が張志雄・高田勝巳著『中国株式市場の真実』(ダイヤモンド社2007年6月刊)です。
私にとっては、株投資に対する理路がはっきりしていなければ、勢いだけの単なる銘柄紹介ではつまらないという思いがあります。
具体的な銘柄選びなどは『中国株二季報』(DZHファイナンシャルリサーチ)や『上市公司速査手册』(中国証券報社編、新華出版社刊)などを表から裏まで何度も飽きずに眺めていれば、これはという上場企業名に出会うものです。そこから数年分の財務状況、決算資料をチェックして、さらに詳しい業界情報などと照合していけば、投資に値する銘柄かどうかは大体見当が立ちます。たとえば『二季報』の企業概要・決算動向・今後の見通しなどの欄は、読めば自分の大企業や起業しての経験から、この企業が業界でどういうポジションにあり、どういう風に事業を展開していこうとしていて、その企業施策が利益に結びつきそうかどうかが推察されます。後は、関心を持ったら経年で実績など企業動向を追っかけていけば何となく企業の実力が見えてきます。実は、銘柄の選考にこそ株式投資の楽しみの過半はあるのだと思えます。人に任せてなんかいられますか。
念には念を入れて、企業訪問してIR担当者に会い、企業情報をゲットして歩く人もありますが、企業や工場見学といった部分で有効ですが、滅多なことでは経営者自らが会ってくれることはありませんし、ホットな耳寄り情報なら別ですが、IR情報程度ならばネットで見ることができます。
それと何よりも株式投資とは、経済の見えない先を読む営為であると自負していますので、推奨銘柄などは人から言われなくとも、自分で研究して探し出せばよいものと心得ています。自分の納得できる個別銘柄に株投資して、3年から5年程度親しくお付き合いしてみれば、おおよその銘柄に対する客観的な評価が得られますし、お付き合いの過程で情報として得られるものは殆ど手に入れることができます。人は自分のお金が絡めば、本気が出ますし、損得から価値や本質まで、お付き合いしているうちに気心も知れて、よく分かってくることも多いのです。
駄目な銘柄、失敗したと思う銘柄は3年も5年も付き合う気にはなりませんから、大体が気付いた段階で即処分となりますし、以後は時々気にはなりますが、お近づきになることもなくなります。お金をかけて重ねた失敗は身に付きます。
逆に、長期で保有したい銘柄は、居ても立っても居られず、買ってしまいたくなりますが、ここが思案のしどころで、少しだけ買って、安くなるのをじっと窺いつつ本格的に買える時の来るのを待ちます。少しでも買っておくと、何より焦る気持ちを抑えることが出来ますし、買った値段が碇となって、その買値より高く買うことが無くなります。
相場の格言に「銘柄に惚れるな」という言葉があるようですが、どうも私の場合は長期で惚れ続けていられる銘柄探しに没頭しがちです。悪い傾向とは知りつつも、成長企業の創業者が自社株で一番儲けているではないか、との思いも抱きますし、尊敬に値する企業や優れた創業者と同じ株を一時共有することで満足を得たいのかも知れません。
こうした実践が株式投資の「オンザジョブトレーニング」ということになります。
実は、今回紹介する『人民元投資入門』や『レッド・センセーション好機到来!今こそ中国株投資』『中国株「黄金の10年」』(小学館、共著)の著者の田代尚機さんも証券会社出身です。大和証券を皮切りに、大和総研のアナリストとして、さらに内藤証券中国部長を経て中国経済アナリストとして独立された経歴の持ち主です。優れて正道を歩んでこられたアナリストの一人と言えるでしょう。
推測するに、証券会社というところは、株式情報がうんと転がっているようで、そのアナリストともなれば毎日飽きることなく数本から数十本の企業レポートを読むそうですから、仕事とはいえ投資すれば間違いなく儲かりそうな企業はおおよそ見当がつきそうですが、如何せん法律でインサイダー取引といって株投資が禁止されているのです。自分で試してみたくなる衝動に駆られない方がどうかしています。それも職業と割り切れば全うできるのかも知れませんが、まさに生殺しのような職場ですね。
私のような生臭坊主ではとても務まりません。すぐ退社して、給料と退職金でも入れば、長者の夢にも酔いしれて、とんだ人生の選択をしてしまいそうです。
そんな不純な理由で、証券会社を辞めて独立されたわけではないでしょうが、上記の著書以外でも、田代さんの書く文章には株価や市場の背後にある大きな潮のウネリのようなものを見極めようという気概が常に見受けられます。
株価や市場の株価指数は、波の上下に喩えられますが、往々にして潮の流れは波とは別の動きをするものです。潮の満ち引きや潮目の変化を感じ、波濤の大きさに踊らされない評価・見立てが、実はとても重要です。
私の場合、中国株はA株投資に比重を移していますから、A株にコメントする日本の中国株アナリストは希な存在と感じています。まあ、その理由は明快で、外人には取引に制約を設けている上海や深圳のA株にコミットメントしたところで、聞く耳を持つ人はいないわけですから、中国株アナリストの立場でもコメントには大した意味がないわけです。
ですが、そこを敢えて詳細にコメントしてしまうところが、田代さんの正直で、真面目さがうかがい知れるところです。実は、本当のところ中国株を語る時、そこを外しては通ることができないからです。B株にしても、A株市場に同時上場している銘柄は多く、投資銘柄として取り組める価値ある企業数に限りがあるというきらいがありますが、疑似A株市場としての臨場感を味わうことは可能です。我々外国人にも取引が認められている株式市場なのですから。
株式投資では儲けが出せることが重要ですが、1度の儲けだけではお話しになりませんし、儲けを出し続けることはもっと難しく、準備と軌道修正の繰り返しになりますが、自分の見立てが正しければ、結果として成果も付いてきます。株の勝敗は買った時点で7、8割方の勝負が付いています。簡単に言えば、買値が相対的に安ければ、損することはまずないのですから、買値を下げる努力をすればよいことになります。これには若干ですが努力の余地があります。株価が下げる時にこそ、チャンスがありますし、介入の余地があります。上がる時に手を出さなければ損するリスクは減っていきます。そこは幾ら説明しても、誰でも分かっていますから、後は「オンザジョブトレーニング」しかありません。何でも極めるには、それ相当の集中訓練の時間とお金が必要になりますし、その覚悟をまず自覚しなければなりません。
さて、田代尚機さんの『人民元投資入門』という本の紹介をするといっておきながら、長々と前置きが続きました。申し訳なく思うのですが、私の方で田代さんへの思い入れが強いので、著者紹介のような文章が続きました。
中国株だけでなく、広く中国経済についてのアナリストでもある田代尚機さんが、人民元投資を勧める理由はどこにあるのでしょうか。
結論から言えば、中国の通貨である人民元の地位は今後の世界の通貨市場において、益々高まっていき、日本を含む他国の通貨はその相対的な価値を下げていくということです。
「経済成長率の高い国ほど為替レートが強くなる」とは、経済学の常識で、これをバラッサ=サミュエルソン効果といいます。いま人民元はそれにもっとも相応しい通貨です。
さあ、そう言われて困りました。中国の通貨人民元は、為替取引が自由化されておらず、むしろ中国の統制下におかれた規制通貨ではないかという常識めいた話が必ず出てきます。また、意地の悪い人は、共産中国は何をしでかすか分からないから、仮に人民元に財産の一部でも転換してしまうと、勝手に没収されてしまうぞと脅したり、共産中国が崩壊したら紙くずにもならないぞと恐怖をあおるかも知れません。
これに対して田代氏は、もっと日本人はドライになって「理屈ではなく、利益を取れ」と仰います。少しは中国人に倣って「名ではなく実を取れ」と。
「どんなに中国が嫌いでも人民元資産だけは持っておこう」とまで仰っています。
仮に、アジア全域が「人民元通貨圏」になって、不愉快な気持ちになったとしても、自分の資産を人民元に転換して大きく資産を増やすことが出来たなら、大いに結構ではないか、悪い気はしないだろう、というのです。
正解です、その通り、と私も諸手を挙げて同意します。
今、日本は少し「アベノミクス」という流行性の鼻風邪にやられています。為替の円高誘導、インフレ2%ターゲット、その先の大衆増税とマイナンバー制度の導入など、収益力のあるグローバル化した企業は出ていくのに、内向きの国民に絞り込まれていく乾いた雑巾を締め上げていくような息詰まりそうな政策の数々です。これは何かあるぞと気付くべき時です。国が、また多くの国民が内向きで、このグローバル化の時代に逆行しようとし、儲かる企業のみがグローバルに事業を海外に展開して収益の多角化をはかるなら、世界で躍進するトヨタやユニクロに快哉を叫んで日本人の自尊心はかろうじて保てても、国内に縛られて活躍の場は減り、自らの財布は寂しくなる一方というのは如何なものでしょうか。
何も脅すわけではありませんが、日本に迫る危機は「財政破綻」とまでは行かなくとも、円資産の急落は極めて現実味のある深刻な未来予想図です。
こういう時は、株の格言にある通り「人の行く裏に道あり、花の山」で、自ら奮起して外向きに、中国人が最近よく使う言葉「走出去」(外に出ていく、転じて外国に稼ぎに行く、海外進出の意味で使用される)を真似てみてはどうかと思うのです。
釣りだってチャンスの多い場所に移動して、釣り糸をたれた方が戦果は多いはずです。
稼げる場所にお金も動く、モノも動く、人も移動するのでなければならないでしょう。
田代氏の見識に従えば、中国政府、および金融当局は断固たる意志と意図を持って人民元を世界の基軸通貨のひとつに加えようと手を打っています。ここが最も重要で、客観的事実を見れば、実現しない可能性は低いでしょう。
この本には、人民元預金を手始めとして人民元建て金融資産に投資する方法の数々が紹介されています。まずは中国本土で、次に中国オフショア市場(香港など)を経由して、さらに日本にいながらにしての投資が可能だといいます。
こうした多くの得難い知識がいま貴重で、人民元建て金融資産への投資が可能になり、リスクヘッジが上手くいった暁には、次の段階、すなわち製造やサービスなどお金を生む事業等への直接投資の道に応用範囲を拡げていけばよろしいのではないでしょうか。
いずれにしても、中国をはじめとする成長センター・アジアが個人の活躍の焦点になります。何もアジアで稼ぐ独壇場となるのは巨大グローバル企業だけではないはずです。
2013.03.23
注)この文章は、事前に田代先生に主旨を理解していただき、了承を得ています。
2013/08/20