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中国名言と株式紀行(小林 章)

第132回 中国・天津より/中国株日記 (65)

【NO.68】中国、天津より(6)
ここでは、第1点目の天津での用件について、付随して私が考えたことを、引き続いて述べてみます。

私の天津での定宿は海河沿いの暇日飯店(ホリディ・イン)ですが、夕方ゆっくり時間をかけて海河に沿って散策を楽しむことができました。海河の分岐側では川面に厚い氷が張っており、多数の年配者が小椅子に座って氷面に開けた穴に釣り糸をたらす姿が見られます。
30分位の散策をしたところで、海河に沿って設営された電飾の灯りが一斉に点りました。春節開け間近で、あちこちから花火を打ち上げる音も轟いてきます。夜の冷え込みを予想して、そろそろホテルに戻ることにしました。

散策しながら考えてみました。
日本人はお金をフル活用することが実に下手だなあ、と。そもそも、そうした発想がないのかも知れません。

お金は、たまたま転がり込んできたような幸運のみでは、たとえば高額宝くじに当たるとか、親の多額の遺産が転がり込んでくるとかいったいった幸運で、一時的に「資産家」になったとしても、必ずしもずっとその財産を維持し増やせるとは限りません。
そうした財産を維持し増やしていくにはどうしたらよいでしょうか。

ジョージ・クレイソンの古典的著書『バビロンの大富豪 』にはその答えが次のように明確に記されています。
「人間にとって財産とは、財布の中に持っている現金ではありませんぞ。しっかりした定期的収入こそが財産なのです。財布の中に絶えず流れ込み、いつも中味をふくらませてくれる金の流れこそが財産なのです。誰もが欲しがるのは、実はこの流れなのです。」
ここに指摘されている「お金の流れ」をこそ見つけ出し、その通り道に常に位置していることで「資産家」で居続けることが可能だと考えるのが妥当なのです。邱永漢先生の「釣り」理論がまさにそうでした。
基盤を築き信頼を得る立場を確保すれば「お金の流れ」を自ら引き寄せ、その「金路と金流」を自分の庭に引き入れることも可能となるでしょう。やはり、その流れをうまく引き入れるその人の知恵が必要不可欠です。その人の「能力」と言ってよいかも知れません。
ここで一番肝要なことは、この引き込んだ「金路と金流」を滞留させないことです。お金は清い流れのみに棲む性質があります。スムーズに常に清流の如く流すことで、流れの周囲を潤すことができるのです。がめつく「お金の流れ」の独占を試みたり、本流を妨げるような不健全な流れを作為的に作ろうとすれば、すぐに淀み腐り、その人に害を及ぼす「腐水」となりかねません。古来より「お金」が一方で禁忌や汚れの対象とも見なされたのは、こうした事情と関係があります。

ボールゲームでも、狙った作戦通りにパスがスムーズに繋がっていけば、ゴールを脅かすチャンスが何度でも生まれます。パスを封印し、ボールが渡ると独占し、自分で強引に得点をゲットに行けば、進路は狭まり、好機は潰されにかかります。結局、敵陣の包囲網にひかかり、ボールは奪われ逆襲の好機を与えてしまいかねません。やはり、滞ることのない多彩なパスコースにボールを散らし、包囲網を攪乱させることで多くの好機が演出できるのです。結果的に、ボールの流れを堰き止め滞らせるような選手の所はパスが通らないデッド・スペースができてしまうことになるのと同様のことが起こります。

中国の股民(一般投資家)の特性は鞘取りのような賭博的と見なされる取引にありますが、必ずしも日本のデイ・トレーダーのやり方とは自ずと性質が異なります。
それは彼ら流の投資資金を寝かしておかず働かせるという、意思表示でもあります。資金を遊ばせず無駄なくクルクル回して利子や利益を生ませるという発想に基づいています。利益を生まない投資は行わない、という意思表示でもあるでしょう。リスクは当然ありえます。リスクを冒すから利益が生まれるのです。損失が出るかも知れないとリスクを取らないのは、そもそも儲けようという意志と度胸がないとみなされ、むしろ蔑まれます。当然損をすれば、その投資は失敗ですが、リスクを取らない臆病者よりはマシですし、損は場合によっては勉強になり新しい投資への道を開き、次の利益に繋がる場合もあります。

人民中国成立後、初めて個人経営の民営銀行(金融機関)「方興銭庄」を立ち上げた伝説の人物が温州人の方培林です。元々彼は国営病院の文書室に就業しており、自分の考案した新商売の合法性を政府の中央書類を読み漁り、確認した上で集めた資金を株式制の資本金として出資者を株主とし、自ら代表取締役に就きました。そして株主には1-1.2%の月利で配当し、貸し付けには2%の月利でお金を貸し出しました。彼の採った経営の融通性は抜群で、既存の農村信用社などの金融モデルを優に凌駕しており、24時間営業サービスも採用していました。

彼の1日を詳しく記録した人があります。その1日を覗いてみましょう。

「午前10時、南北貨物という会社のオーナーが慌てて入ってきた。
『1万元を貸して下さい。午後、温州市で100箱の調味料を仕入れたいんです!』
そのとき銭庄には金がなかったが、方培林は笑顔でそれを受け入れた。午前10時5分、方培林は雑貨店を経営する陳氏の家に行き、彼に1万元を貸してくれと頼んだ。
すると陳氏は難しい顔でこう答えた。
『ダメだ、午後2時によそに2万元を振り込まないといけないから、手元のお金は使えない』
方培林は言った。
『それは知っています。だから午前中に来たんです。4時間だけ貸してくれませんか。午後2時前までに必ず返しますから』
10時20分、南北貨物のオーナーは1万元の資金を手にした。方培林は陳氏の資金が4時間寝ているということを上手く利用したのである。
そして40分後、すなわち午前11時に、ある人が1万元を預け入れてきた。方培林はそれを陳氏には返さず、この資金を別の2人に貸した。午後1時半、また1万元の預け入れがあった。方培林はこの1万元を陳氏に返した。方培林は1分1秒を争う状況で、4時間の間に資金を3回も使いまわしたのである」
「このやり方で、方興銭庄は瞬く間に大繁盛し、オープンして1年足らずで、預金者は2400人を超え、回転資金総額は500万元以上となった。方興銭庄が独自の変動利率を打ち出したことにより、市場の需要が明らかになったのである。」

方培林のやり方や考え方は、中華民族にはフムフムと理解されやすいものですが、逆に日本人には理解されにくいものではないかと思います。
資金回転率を極限まで上げて、お金のパフォーマンスを高め、フル活用することで、お金を一時も寝かしておかず、お金を遊ばせず、お金の流れを常にクルクル回し「金流」を淀みなく「金路」を滞らさないこと。このことが利益を生み、お金の流れる勢いが強ければ強いほど手にすることができる利益の利率を高めることができるのです。
常にお金を回し、その環のなかに上手く組み込まれ続けることで、利益を手にし続けることができます。
お金を無為に貯め込み、そのお金の環を乱し、そのお金の流れを淀ませ、そのお金の道を遮ろうとすることで、金運は停滞し、後退と退散を余儀なくしてしまうのです。
こうしたお金をフル活用する発想、現実的な考え方、具体的なやり方も我々は身につけておくべきでしょう。金運のチャンスを確実に逃さないために。
2013.03.13

 

2013/08/10