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中国名言と株式紀行(小林 章)

第129回 中国・天津より/中国株日記 (63)

【NO.66】中国、天津より(4)
日本からの資産のリスク・ヘッジをうまく海外投資に活かす方法はないでしょうか。

これにはやはり現地の企業法人をうまく活用すべきでしょう。

現在、アジアが世界の成長センターとなりつつあります。鮮明となった成長国の経済発展にうまく便乗していくことが、資産を守り増やすチャンスに繋がり、資産のリスク・ヘッジを一層確実で安全なモノとすることができるのです。

しかし、個人の壁は客観的に厚いものがあります。「日本の金融慣習の鎖国性」に問題があるからです。
そうした問題点をあげておきます。
まずは、100万円超の現金を日本から海外に持ち出すハンドキャリーについてですが、現在関税法で申告義務があります。怠った場合は5年以下の懲役又は500万円以下の罰金という罰則まで設けられています。
また、金融機関からの海外送金についても、一度に200万円以上の送金については金融機関にその目的と根拠を示す証憑の提示が義務づけられています。
また、個人の場合海外の銀行預金の利息収入などについても原則、税務申告が必要としています。
2011年12月の税制改正大綱では、個人の5千万円超の海外資産については毎年の税務署への調書提出を義務づけるべきとの方向性が示されています。罰則は最高で1年の懲役刑になるということです。
政府は個人の資金の流れがボーダーレスになり、税金の申告漏れ、取りっぱぐれが増えることを懸念しているといいます。
今後、被相続人と相続人が共に海外に5年以上にわたって移住し、国外の資産について相続税や贈与税を免れるケースが増えると見ているのです。
ちなみに相続税に関する動きについては、2012年1月に素案を決定した「社会保障と税の一体改革」では、これまで「1千万円×法定相続人の数+5千万円」だった基礎控除を「6百万円×法定相続人の数+3千万円」に引き下げる方針が打ち出されています。
今後の政府による個人の資産や資金の監視強化は、個人と政府との軋轢と摩擦を増すことになるでしょう。
ここでは、基本的に日本の税制が、日本に居住しているかどうかを基準とする「属地主義」に基づいており、日本国籍者かどうかという「属人主義」を採用していない点に注意しておきましょう。日本での1/3以下の居住が、その判断基準点となるようです。

しかし、良く考えてみるとおかしな話です。国力低下と経済の停滞現象、結果としての国家財政の危機は、なにも個人にすべて責任転嫁されるべき性質のモノではないはずです。
それでなくても「内向きの日本人」を脅してまで益々国内に縛り付けて、その個人資産までも監視・規制しようとする、その賤しい魂胆に嫌気がさしてきます。
もはや政府が機能不全に陥っているのであれば、能力と熱意のある個人が水を得て海外にまで動いてでも財を築き増やし、その資金の一部でも日本に環流させることで「日本を元気にする」という役回りが許されても良かろうと思うのです。

まあ、このリポート自体は、課税逃れを推奨する立場では毛頭ありませんし、そうした観点とは別の「成長センターのアジアに起業」で、積極的に個人の資産を守り増やす方策を模索するものです。
しかし、その場合でも、課税申告の問題や合法かどうかの基準点は避けて通れませんから、いちいちこれ以上の課税問題は取り上げませんが、実際の海外進出時には細部にまで目を通して配慮をしておくことは重要です。

さて、個人的な視点と技量を持ってアジア地域に「走出去」を目指す場合でも、邱永漢先生も指摘されている「日本人も自分らの会社をシェルターとして、チームワークを組みながら国際的に自分らの世界を築かなければならない時代になってきた」(『日本脱出のすすめ』前言)という意味をもう一度かみしめてみる必要があります。
やはり、個人で香港に投資拠点としてのダミー会社を作ってというと、一段ハードルが高くなります。度胸も見上げたモノですし、方向性も間違っていないでしょうし、違(たが)うことのない邱永漢先生の仰る「宝の山」に近づく第一歩になります。

しかし、ざっくばらんに言えば、私の提案は、日本と現地(香港など有利な投資拠点)とに会社法人を設立して、太いパイプラインを築くのです。このパイプラインがいわゆる「シェルター」となります。そして、こころざしを持つそれぞれの個人同士が参加し「チームワークを組みながら」、それぞれの責任と独立採算で会社法人に係わり、会社間のパイプを最大限に活用すればよいのではないでしょうか。
そして、現地の投資拠点企業から、さらにアジア各地の株式投資を行う部門や者がおり、同様に各国の有利な不動産への投資を行う部門や者がおり、域内の日系企業や優良中堅企業への金融サービス業務を行う部門や者がおり、域内の交易や日本との貿易業務を行う部門や者がいるという風に広がっていけばよいのではないか、と思うのです。

それぞれに技能や見識を持つ個人個人が集団で、機動的にチームワークを組んで「怖い虎のすむ宝の山」に近づく方法は、東洋のユダヤ人と呼ばれる「温州商人」の最も得意とする戦略・戦術です。
こうした有益な方法論を採用しない手はないでしょう、と私は考えるのです。
アジアの国と地域の実態と実際に即して、適応策を練り対応していけば必ず「怖い虎のすむ宝の山」への道は開かれるはずです。

邱永漢先生の最後のメッセージは「これからアジアの国々は酷い目にあう。大変な事になるだろう。でも、それも面白いね」という言葉であったそうです。
最後の言葉には楽観的だが、圧倒的な力がみなぎるようです。
酷い目にあうアジアの国々の中で、特に一番酷い目にあうのは「日本」になるのではないでしょうか。
将来、円がその価値の暴落によって、それを契機として中国の人民元が円にアジアでの主役交代を迫り、円がそれを粛然として受け入れる、という事態が現実的なシナリオとして進行しつつあるのかも知れません。
その時に日本は改めて国力の差を思い知らされることになるのではないでしょうか。
しかし「でも、それも面白いね」と言えるような、準備がそれぞれにできているでしょうか。
2013.02.25

注)この記事は、過去のものからの再録の形で転載させていただいております。時事的に古い話題が取り上げられていますが、内容的には時間の風雪にも耐えられるものと思い、取り上げさせていただいております 。 

2013/07/15