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中国名言と株式紀行(小林 章)
第121回 中国・天津から/中国株日記 (59)
【NO.60】中国、天津から(23)
上海、深圳の株式市場に上場する企業の第三期度(9月季)の決算が出揃いました。
企業業績は減速傾向が顕著です。それは、すでに中間期(6月季)の決算を見ただけでも明らかでしたが、好業績順位にも大きな変動はありませんでした。
この度の9月期の決算業績を具体的に1株1元の発行額面の株の一株収益に注目して見て、参考に上位20社の業績を上げておきます。
(元) (元) (万元) (%) (万元)
No. 銘柄名 一株収益 一株純資産 純利益 純資産収益率
1 600519 贵州茅台 10.04 30.11 1042005.92 33.33
2 002304 洋河股份 4.47 12.38 482812.43 36.12
3 900948 伊泰B股 3.88 11.53 582800.22 31.06
4 600694 大商股份 2.84 14.59 83445.52 19.47
5 601166 兴业银行 2.44 12.78 2634100.00 19.10
6 600436 片仔癀 2.16 10.00 30213.34 21.58
7 000568 泸州老窖 2.11 5.91 295383.75 35.72
8 000858 五粮液 2.06 7.64 780187.02 26.92
9 601318 中国平安 2.03 18.47 1608500.00 11.00
10 000001 平安银行 2.00 15.95 1023789.40 12.53
11 000895 双汇发展 1.91 9.71 209856.72 19.64
12 300346 南大光电 1.87 22.58 7577.09 6.68
13 601088 中国神华 1.84 12.24 3655500.00 15.01
14 002293 罗莱家纺 1.80 12.56 25314.25 14.36
15 000651 格力电器 1.79 8.21 533217.88 21.59
16 200152 山航B 1.75 6.47 69938.10 27.02
17 000869 张裕A 1.70 7.84 116275.81 21.63
18 600340 华夏幸福 1.69 4.57 149170.98 36.99
19 000552 靖远煤电 1.66 11.74 29598.27 14.17
20 000538 云南白药 1.62 9.46 112297.23 17.10
やはり、予想通りの断トツの1位の業績を発表したのは「貴州茅台酒」でした。1株1元の額面の株式に10.04元の収益があったことになります。決算期では、恐らく1株あたり13元超の収益は固いところでしょう。
それにしても、貴州茅台の他に洋河股份、泸州老窖、五粮液の4社が上記20位中の上位に入った国酒(白酒)酒造メーカーでした。中国の人は、高粱(コウリャン)を主原料とする強い酒精度(30-60°)の白酒が大好きです。欄外ですが山西汾酒(600809)、 古井貢酒 (000596/200596)、金种子酒 (600199)などの白酒酒造メーカーも好業績でした。
しかし、湖南省の著名白酒「酒鬼酒」製造メーカーの可塑剤混入事件がこの11月にメディアに大きく報道され、同社は1997年に深圳証券取引所に上場(上場銘柄:「酒鬼酒」)を果たしていますが、以降株価は大きく下げました。業績好調だった上記白酒銘柄も混入疑惑が拭いがたく、軒並み20%前後の下落に見舞われています。
ちなみに「酒鬼」とは、中国では「酔っぱらい」「のんべえ」を意味し「酒鬼酒」は銘酒の1つに数えられる存在となり、中国著名ブランドにも認定されていました。
また、食品飲料メーカーの双汇发展、张裕葡萄酒が好調な業績です。
しかし、この両社も不法添加物使用や混入などの報道があり、株価は振るいませんでした。食肉加工最大手の双汇发展は昨年より違法添加薬物使用や同業社の賞味期限偽装報道などで25%程度の年初株価の下落が続きました。なお、香港市場に上場する中国雨潤食品(01068)も同業ですが、業容から見れば双汇发展からはかなり離されています。
また、张裕葡萄酒は今年8月に残留農薬報道があり、株価は暴落しています。
しかし、上記の飲食関連銘柄は、大型消費財関連業種であり、業界内の競争による淘汰変遷は免れませんが、貴州茅台酒や张裕葡萄酒、双汇发展など業界断トツの実力と知名度を兼ね備えた銘柄は株価が不慮の事態でへこんだ時がやはり最大の買い時です。
その他では薬品が2社、採鉱業が3社、金融が3社、電器電子2社、不動産投資1社、商業1社、繊維1社、航空1社の内訳となっています。食品など消費財関連の内需銘柄の健闘がどうしても目立ちます。
中国政府は、今度の新執行部を選出する第18回中国共産党大会で3つの具体的な重要課題を現実に移すことが予想されています。
(1)収入分配体制改革包括方案--温家宝首相が公言して果たせなかった所得格差改革の柱の政策です。
(2)所得倍増計画--2010年の国民1人当たりの実質GDP額を2020年までに2倍に引き上げる計画です。胡錦涛国家主席が新たに掲げた経済目標です。
(3)農村の都市(城鎮)化計画--李克強(新首相就任予定)副首相の提唱している農村の所得格差の解消を狙った政策です。
こうした今後中国経済のキーとなる政策の実効が挙がってくれば、中国国内の内需の盛り上がりに貢献していくでしょう。株式投資では、消費財関連銘柄を慎重に吟味して、長期投資する姿勢で臨めばよいでしょう。
スイス金融大手クレディ・スイスによれば、中国の家計の富は今後5年間で約18兆ドル積み上がり、2017年には38兆ドル(約2970兆円)を超え、米国の89兆ドルに次いで2位の座を維持してきた日本の32.6兆ドルを逆転するとの予測が示されています。中国では富裕層人口がほぼ倍の190万人に達すると、この10月10日に発表した「世界の富に関する報告書」で予測しています。
ちなみに、全世界の家計の富は12年半ばの223兆ドルから17年半ばには330兆ドルと48%増加すると推計されています。
バブル崩壊が叫ばれて久しい中国経済ですが、国内の雰囲気は明らかに異なります。確かに不動産投機などで随所に小バブルの兆候は見えますが、一般的にバブルを警戒する気配はどこにもありません。もちろん、この楽観論は中国経済がかつてバブルを経験したことがないこともその理由でしょう。しかし、国内に滞留するお金の総額は膨大ですが、そのお金が一般市民には僅かにしか見えていません。一部の中間層はマイホームや自家用車所有の夢を叶えましたが、相変わらず大多数の市民はまさかの事態に備えてこつこつ貯蓄に励み、老後に怯えており、消費を謳歌するまでには至っていません。
しかし、中国人全般の消費への欲望や消費行動のすさまじさは、すでに日本や海外への買い物ツアーにその片鱗が見て取れます。国内での消費を促す条件さえ整えば、盛り上がりは必死です。
そして海外から心配され続けるバブルの崩壊ですが、バブルの加熱をあおる条件は庶民レベルでは醸成どころか、まだまだ飢えさえしのげない状況なのではないのでしょうか。やはり、バブルとその崩壊は、日本で経験したように所得中間層が消費をリードするようになり、経済が成熟社会にさしかかった前後の所で発生するものなのではないかと思います。現状の中国経済は、巨額のマネーも乾いた砂漠の砂にスッと吸い取られるような癒しがたい渇きが存在しています。その渇きが満たされた時にこそ、本物のバブルとその崩壊が控えているのではないでしょうか。
中国経済には、まだまだ経済成長の伸びしろがあるのだと思わざるをえません。
見える景色の向こうを見よう。これは邱永漢氏の言葉ですが、誰しもが今見えている景色に気を取られている、その景色の続きに次に見える景色があるのですから、今見ている景色の変化のなかにも次の景色へのヒントは必ずあるはずなのです。
2012.11.01
注)この記事は、過去のものからの再録の形で転載させていただいております。時事的に古い話題が取り上げられていますが、内容的には時間の風雪にも耐えられるものと思い、取り上げさせていただいております 。
2013/06/27