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中国名言と株式紀行(小林 章)

第115回 中国・天津から/中国株日記 (56)

【NO.57】中国、天津から(20)
中国ネット企業の動きが活発です。
ひと頃は、百度、新浪、捜狐、网易、優酷网、土豆网、人人网、当当网などのニューヨーク株式市場への上場により、中国版ネット・サービス企業が海外市場を目指した時期がありましたが、最近は中国本土市場への上場機運も高まってきました。
人民日報の運営する人民网(上海603000)、不動産サービスの三六五网(深圳300295)、経済証券サービスの同花順(深圳300033)、東方財富(深圳300059)、動画サービスの楽視网(深圳300104)などです。

政府系の新華網、人民網、中国政府網などの他に、既存メディア(新聞、雑誌、テレビ、ラジオ、通信)もネット上のポータルサイトの運営に熱心です。また、百度、新浪、捜狐、网易、騰訊QQ(香港00700)、谷歌(Google)といった商業ポータルサイトや人人網、開心網などのSNS、淘宝网に代表される商城サイトも急速に伸びています。

中国のネットユーザーの急増は、2001年以降の約10年間で爆発的に拡大しましたが、以前に取り上げた浙江核新同花順网絡信息股份有限公司(300033、http://www.10jqka.com.cn/)の株式売買情報サイトなどでも、特定銘柄について「股吧」という株主同士の意見の書き込み欄があり、盛んに個人の株式情報のやり取りや交流が開示されていて、括弧付きの企業秘密や業績予測が飛び交ったりしています。またこうしたネット上の書き込みが、株価に影響を与える場面も出てくるようになってきています。株を通した、こうした同好の士同志の楽しげな意見交換の場には、日本の株式サイトではちょっと見られない光景があります。

中国ではネットユーザー間の関係が比較的密接で、現実の人間関係に見られない、リアルを超えた仮想ゆえの関係性の高い壁を意識することのない、気安いが真面目で、時に正義感に駆られたようなテンションの高い書き込みが多く見られます。
また、役人の不正を暴くような書き込みでは、50-100万件程度の反応が瞬時に現れ、ネット世論が形成されて、既存メディアの影響力を凌ぐような事態にまで発展してしまいます。ネット世論が政府の政策さえも変えてしまうようなことが現実に起こっています。
こう見ると、中国人はネット向きの人たちであるように感じざるをえません。ネット社会の出現は、中国に新たな若者を中心とした自己表出の場を提供しており、権力機構側もこうした動きを世論形成要素として、政治的に取り込まざるを得なくなってきているのです。

一方、日本のネットユーザーはもの静かでテンションはやや低く、パーソナルな日常性に彩られた日記風の記述が中心的で、時間があるからなのか女性の利用が目立ち、政治的には保守的傾向が強く、絵文字など多用し虚構性の高い書き込みが多いのを見くらべると、ずいぶんと中国ユーザー間のやり取りと雰囲気が異なります。
日本では、匿名でのユーザーが主流なのに対して、中国のブログユーザーは大抵実名・顔写真付きで公開されることが多いようです。従って、こうしたブログユーザーの書き込みは身元が割れるのを覚悟した比較的真面目なものが多く、趣味趣向に対する自己主張的な場面をネットが提供しているようなものです。こうした面が、ネットユーザーを増やしている要素にもなっています。中国人は自己主張が比較的好きなのでしょうか。何とも言えないところはありますが、自己主張や興味、不満やストレスの発表・発散の場として自家薬籠中ものとして楽しんでいることは確かです。ネットの力を借りて、社会の諸般にコミットし、次第に社会に対する発言権を持ち始めています。中国のネット人口は、まだまだ増え続け2015年には、全人口の半分を超える7.5億人になると大手調査会社は予想しています。

しかし、若干気がかりな点もあります。それは、中国のネットナショナリズムの問題です。尖閣の領有問題や東シナ海ガス田の共同開発問題などに絡むネット暴力は見過ごせない面があります。

かたや、日本ではネット民意が低く、政治がネット世論に殆ど注目していませんし、既存のマスメディアを凌ぐようなネット世論は出現しません。精々、ネットは世論調査のツールでしかありません。ネット上での目立つブログの論調は右傾化的な書き込みが多い様に感じます。日本では匿名性のネット・コミューンが何をもたらすのでしょうか。
2チャンネルなどの書き込みは、みな匿名性をいいことに悪意に満ちた意見や妬みが多く、ネット犯罪予告など陰湿なイメージさえ見えます。ツイッターの書き込みには、秘密暴露や誹謗中傷が随所に見られるようになりました。
匿名性は、言い過ぎかも知れませんが、日本人の「旅の恥は掻き捨て」的な暴走を産むばかりで、ネット世論形成にはほど遠いのが現状ではないでしょうか。何もネット利用にお行儀の良さや正論を期待するものではありませんが、民族性の比較考証のヒントを得ることは可能です。

ネットの活用法も、中国と日本、国境を跨げばずいぶんと現状は異なるようですよ。
2012.09.12

注)この記事は、過去のものからの再録の形で転載させていただいております。時事的に古い話題が取り上げられていますが、内容的には時間の風雪にも耐えられるものと思い、取り上げさせていただいております 。 

2013/06/15