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中国名言と株式紀行(小林 章)
第105回 中国・天津から/中国株日記 (51)
【NO.52】中国、天津から(15)
今回は、山寨(サンザイ)企業について取りあげてみたいと思います。
私も、つい最近までこの「山寨」の存在を見落としてしまっていました。
かといって、山寨という言葉を知らなかったわけではありません。最近の携帯電話や、古くは音響機器、白物家電でも、粗悪で模造された有名ブランドのコピー商品のことだろうとの認識程度でした。
しかし、先日ネット上で閲覧した「マネージメントジャーナル」Vol.11の内容に、ただならぬ中国の製造業の進化の意味を再確認させられたからです。
携帯電話の「北京天宇朗通」(国内シェア1位)や比亜迪(BYD)(国産自動車メーカーで上位)、非常可楽(国産コーラで1位)、QQ(騰訊控股)(中国最大のポータルサイト運営)、中国レンタカー大手のeHiカー・レンタルといった企業をご存じでしょうか。
これらの中国で大成功を収め、世界でも名前の知られるようになった有名企業も、実は「山寨」の系譜に位置づけられる流れだと解釈すれば、より理解が進むと言うのです。
そもそも「山寨」とは何かというと、もとは『水滸伝』に描かれた梁山泊ような「政府の統制外にある山賊の砦」を指す言葉で、近年は模造品や海賊品の別称となっています。
レポートでは「山寨企業は、中国市場において大きな攪乱要因となっているが、中にはリーダー企業にまで成長するケースも出始めている。中国文化の革新性や中国市場の成長性は、山寨企業にとって多くの事業機会を産み出すのである。有力な山寨企業は、行動が迅速で柔軟性に富み、積極的にリスクを取るという革新性を有している。事業が一定の規模に達すると、迅速にバリューチェーン(価値連鎖)の川上に移動することで競争優位なコア・コンピテンシー(「顧客に対して他社のまねのできないもの、自社ならではの価値を提供できるもの、自社の競争上の強み」つまり顧客から見た企業の力を意味する)を確立してしまうのである。」と定義しています。
こうした中国の山寨企業が「社会通念に従うことなく成功を収め、革新を通じて競争力を高めている」というのです。
ここでは、山寨ビジネスモデルというものが、当然のごとく考えられると思われます。
山寨事業モデルのポイントは「多くの場合ゼロからスタートして驚くべきスピードで進化し、成熟した業界で主要企業に挑戦する存在になる」ということです。
そのために山寨企業はどのように機能しているのか。
「第一に、今日細々と営業している山寨企業が明日には巨大企業を打ち負かす可能性があり、常に脅威な存在になり得る可能性がある」ことと「第二に、山寨事業の成否は、現地市場に対応した独創的で新しい戦略によって既存の市場体制を攪乱する能力のみにかかっている」ことだと言います。
当初は国内市場に焦点を絞り、おもに大衆消費者をターゲットとする大衆消費財に的を絞り、商品投入に関しては極めて短いサイクルタイムを追求し、品質は多少劣ってもコストを重視し、製品の機能や特性を現地ニーズに特化したモノとすることで、山寨ビジネスモデルは成立します。
多くの発展途上の国々では、山寨企業の製造する革新的な低価格商品で、消費者は商品選択の幅が広がり、今まで入手の困難だった社会生活上の利器を得ることができ、入手可能な商品の範囲を格段に拡げること、新たな消費マーケットの開拓・拡大と活性化にも大いに役立っています。
山寨ビジネスの実相には、中国人独特のメンタリティーが存在します。
鄧小平の語った「石を探りながら河を渡る」という精神が、実践的な行動の中に試行錯誤を繰り返しながら、常に前進するという中国人の企業家気質(=恐れ知らずの実験者)にピッタリ当てはまっているのです。
しかし、よくよく考えてみると、山寨マインドは昔(戦後)の日本の著名で偉大な企業家のなかにも熱く燃えさかっていたモノではなかったでしょうか。
中国の企業家に進出を許す前に、日本人の企業家に山寨マインドをもう一度謙虚になって学んでもらい、日本の停滞し弱気に陥っている現状を打開し、国内の成熟型の既存ビジネスを打破する「山寨ビジネスモデル」を是非構築し直してもらいたいものです。
中国のような未成熟なマーケットや未整備な法制の隙間を突いて醸成されてきた山寨ビジネスは、知的所有権保護などの規制や外圧をすり抜けて成立してきたという面もありますから、そのままの形態では日本マーケットへの混乱要因を内包する恐れがありますので、たとえば日本や欧米といった成熟市場においては、独自のキー・テクノロジーとなる優れた技術的革新と素早く結びつき、かつ新たな規制緩和や技術特許などに裏打ちされた公明正大なビジネスモデルへの転換を果たす必要にも迫られるでしょう。
いま、目の前に立ち現れている新たな消費関連のビジネス機会に対して、勇気を持って隣国の成功事例をコピーし、急激に学習を深化させ、スピード感を持って実践することが、競争優位を取り戻す正道のひとつであることは疑いの余地がありません。
中国の山寨ビジネスの旗手達が、自国の都市と地方の開発格差、或いは経済格差をうまく利用して、大手企業の手が付けづらい未開拓の地方都市や農村部を、まずマーケットとして積極的に開拓し、短期間で成功を収めると体力強化を図り、独自の新商品開発に力を注ぐと同時に、今度は地方から大都市市場圏への知名度を高めて素速く攻め込んでいくという戦略は、かつての毛沢東の「農村から都市へ」の戦略でもありました。
そのことを、また思い出させました。
2012.07.16
注)この記事は、過去のものからの再録の形で転載させていただいております。時事的に古い話題が取り上げられていますが、内容的には時間の風雪にも耐えられるものと思い、取り上げさせていただいております 。
2013/05/26