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中国名言と株式紀行(小林 章)

第103回 中国・天津から/中国株日記 (50)

【NO.51】中国、天津から(14)
いま、日本の大学生は卒業するまでに20冊程度の本しか読まないのだそうです。
ところが、米国の大学生は400冊以上の本を読んでいる、という統計があるそうです。

私は、しばし考え込んでしまいました。
正直なところ、日本人は過去の成功体験が慢心を生み、自信の喪失に陥っており、何をしてよいのか分からなくなっているのではないかと思われるのです。
急激に伸びている経済圏では、教育にも力が入り、子弟の学習意欲も盛んであることが一般的です。
私の長年関わってきた中国でも事情は同じでした。学生はどん欲に学習に取り組んでおり、興味の範囲内なら手当たり次第に情報に触れ、学習機会に預かろうと必死でした。
多少行き過ぎで、奇異なきらいも散見されるほどでした。
しかし、日本の若者、特に自分の息子達と比べて、学習意欲の方向性の違いに、思わずため息をつくこともしばしばでした。

こうした自信の取り戻せないで落ち込みがちな時ほど、顔を上げてとか元気を出せとまでは言いませんが、学習意欲だけは自らかき立てて、本の何冊かは読み込むくらいでなければいけないのではないかと感じています。
他人にも余剰を残し、取りすぎやがめつさを諫める意味で「足(たる)を知る」という言葉がありますが、果敢に何かを取りに行くためには、逆に「不足を知る」ことが必要です。
「不足」する知恵を補うことは、どう立ち上がるべきかのヒントとなります。

日本も日本で気がかりですが、一方、私が足を運ぶたびに感じてきた、中国には中国で別の問題があるように思います。

私の天津日記でも、今まで中国の成功者の数々は多く登場してきましたが、経済成長の本格的な波に乗り、チャンスの多い環境にはありますが、勿論それ以上に失敗者も多く排出されている事実もあります。

最近は市場の門前以外はあまり見なくなりましたが、街路や街頭での販売がかつては盛んでした。扱う商品は結構幅広かったのですが、2、3軒先の露天に並ぶ商品は同じ物が重複して並べられているということも多くありました。
個人商店でも携帯電話が売れるとなれば、そこら中に携帯電話店がいつの間にか出店し、飲食店でも羊肉のしゃぶしゃぶ店が流行ればたちまち周りに数店しゃぶしゃぶ専門店ができ、100元の食べ放題の店に人気が出れば、すぐに近くに80元の食べ放題店ができ、足マッサージの店に人が集まると知られれば近隣に競うように他店も出店し、コンビニ形態の店が繁盛していると見れば他社もチェーン展開に乗り出すし、不動産ブームが起これば街のあちこちで不動産仲介店が軒を並べるといった具合です。

しかし、かといって、中国人のオリジナリティーの無さや便乗商売の傾向を笑うことはできません。

中国では過去30年間、年平均実質GDPが10%台に推移して、経済の高成長の波に乗り、大成功を収めた民営企業家が多くいますが、一方、短命に終わってしまう経営者も少なくないのです。

では、何故、中国の民営企業の平均生存率や生存期間が短いのか。
高成長中の中国にはビジネス機会があちこちに溢れており、経営者にとっては誘惑が多すぎるために、オリジナルよりコピーが、独自開発より便乗型が、集中より多角化が優先さる傾向が強かったといえるでしょう。
儲かりそうな商売や業種やビジネスモデルに殺到し、消費者に飽きられ、あっという間に流行は去り、商品は供給過剰となり、投資も回収できずに消えてしまうというパターンが延々と繰り返されているのです。
こうした安易な2匹目3匹目、さらにその先のドジョウを狙った商売の仕方、儲かる商売に便乗して短期で商売の実を取りたいという中国の民営企業家が多過ぎるのです。

この短期勝負を重視する傾向がとりわけ強いのには理由が幾つか考えられます。

まず、共産党政権下初期で社会資本の公有制原則に慣らされた時代が長かったせいで、民営企業の存在自体が否定されたことがあげられます。
のちの政府の「改革開放」政策の元で、逆に民営企業が合法的に認められ、奨励される時代になり、前江沢民政権下では「三つの代表」が共産党の綱領に盛り込まれたことで民営企業家の入党が認められました。
しかし、過去の経緯から見て、また政府の政策変更ひとつで民営企業家の地位が翻弄され、企業財産の没収が行われる可能性もあります。
政府自体を信用してよいかどうか、心の内では恐れを抱いており、どうなってもよいように対策も練りながらの企業経営なのです。
事業が外的要因で突然挫折したり、潰されたりするリスクが発生する前に、出来れば稼ぐだけ稼いでおきたいという心理的焦りのようなものが感じられます。
ですから、これらの民営企業でも、長期の企業戦略が描けず、また経営陣の多くは信頼の置ける親族で固められて、将来の企業展開を見据えた合理的企業組織の構築などの点で弱点が指摘されます。

今回の「重慶事件」でも「打黒」(暴力団一掃)という名目で、数多くの民営企業家らがまともな裁判も受けられずに投獄されたり、資産が没収されたと言われていますが、こうした一事を取ってみても民営企業家の地位は必ずしも安泰だとはいえないのです。

次に、もう一つは中国人の現実主義、実利主義の影響が考えられます。
利の乗った商売は、確かに「蟻の群がる砂糖」のようなものです。「砂糖」でない商売には蟻も群がることはあり得ません。
その「砂糖」の様な商売にこそ取り組む意味があるのです。消費を無いところから掘り起こすようなアイデア商売は時間も金もかかります。

こうした中国民営企業人の気質と気風は欠点の多いモノのように思われます。
しかし、また逆に、次々に生まれる民営企業家の「機をみるに敏」といった瞬発的な学習能力の高さや実践的経営の先取性やスピード感や軽量経営などは大いに見習うべき点です。強引とも思える経営手腕で短期間で収益を上げ成功を収める民営企業経営者の多さに学ぶべき点は大いにあります。

かつては香港でしたが、最近は台湾を訪れる中国大陸の観光客とともに、民営ビジネス関係者が急増しているといいます。
彼らの、次の企業経営の在り方のお手本になるのは、どうやら台湾企業なのかもしれませんね。

2012.07.08

注)この記事は、過去のものからの再録の形で転載させていただいております。時事的に古い話題が取り上げられていますが、内容的には時間の風雪にも耐えられるものと思い、取り上げさせていただいております 。 

2013/05/22