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中国名言と株式紀行(小林 章)

第101回 中国・天津から/中国株日記 (49)

【NO.50】中国、天津から(13)
私が中国の天津を生産拠点に選び、日本との行き来をするようになったのは、21年前からになります。
天津で最初にお世話になった2人の友人宅で、6ヶ月以上もホームステイをしながら事業の立ち上げに奔走していました。
2人の友人宅には、それぞれ11、12歳の息子と娘さんが居ましたが、仕事を終えて帰宅すると、私は彼、彼女と一緒に食事を摂り、彼、彼女の部屋のベットを使わせてもらって就寝していました。

その時期に、既に、2人の子ども共、コンピュータを持っていました。女の子の方は勉強熱心でしたし、男の子の方は、サッカーが好きで、ビートルズを初めとするロック音楽に夢中でした。

2012年現在の中国のネット人口は5.3億人とも5.4億人とも言われていますが、2009年6月末時点では3.38億人という中国の統計がありますから、3年あまりのうちに57-59%のユーザーの伸びを示したことになります。また、中国版ツイッターの「微博」(ショートブログ)の登録者は現在3.4億人もいるといわれています。

この多くのネットユーザー(網民)の20-29歳人口が31.5%、30-39歳人口が17.6%を占めていると言われます。いずれも「90后」「80后」と呼ばれる一人っ子世代ですが、彼、彼女らで49.1%と過半数を占めています。
彼、彼女らの世代は社会に出てからが何かと問題の多い世代ですが、20歳以下の世代も更に潜在的問題児世代でもあります。

私が天津で、一時期一緒にすごした彼、彼女等もこの「80后」「90后」と呼ばれる世代です。いわば中国ネット社会の主役達です。
彼、彼女たちは、学校でも、自宅でも、コンピュータを使いこなし、インターネットで友人と情報交換し、会話を楽しみ、音楽や動漫(アニメ)や流行のファッションを知り、双方向ゲームに興じ、生活に必要な情報を得ている世代です。
恐らく同世代では、中国の方が日本の子ども達よりも、コンピュータやネットの環境になじんでいるように思います。
それほど中国では、都市部では、初期の段階から教育の中でコンピュータ教育に力を入れたし、家庭でも親が競って子ども達にコンピュータを買い与えていたと思います。
それが今、中国でネット人口が5億人とか、携帯が一足飛びに普及した大きな原因のひとつです。
遅れていた農村でも、出稼ぎ農民工が携帯を持ち、都会に居残る農民工の子ども達=第二世代も加わり「網民」となって、ますます数の普及に拍車をかけています。

中国政府も、こうした世論形成に大きな力を振るうようになった「網民」の存在を無視することができず、特に中国共産党は「網民」のネットへの書き込みや意見に神経を尖らせていると言われています。
しかし、中国政府は、いくらネットやツイートに社会に対する不満や政治的意見や、党幹部や役人の権力乱用、汚職腐敗といった不都合なことが書き込まれることが多いといっても、フィルタリングや書き込み削除などのネット検閲で網民の意見を誘導したり押さえ込むことは事実上不可能です。
一時的に抑えられたとしても、後から後から、雨後の竹の子のように発信される情報そのものを抑えることなど不可能です。
せいぜいネットの情報源に規制をかけて、閲覧を制限する程度のことで、人から人への口コミによる情報伝達までは押さえ込むことには無理があります。

また、中国政府ではネット対策として「ネット評論員」として1回3-5角(約3.8-6.3円)の報酬で、ネット上で政府の政策を応援するメッセージを書き込む人々がいるとの話もあるようですが、真偽のほどは定かではありません。

メディア規制が厳然と存在する中国で、一旦網民の得た自己発信の手段は、いくら強権的政府の元でも、もはやその手から取り上げることはできないものです。網民の一人ひとりがネットメディアの発信者となって、共産党政権と対峙する構図は、今までよりもこれからが本番になるでしょう。

そのネット商取引で、中国ナンバー1の「陶宝網」の運営を行うのが、先頃(2012年6月21日)香港株式市場で上場廃止となった阿里巴巴(01688)の親会社「阿里巴巴集団」です。
上場廃止の理由が「上場のプレッシャーからの解放」とは、また不可解な理由でした。
その「阿里巴巴集団」を率いるのが、何かと話題性の多い馬雲総裁(CEO)ですが、彼の伝記本を読んだ人は多いでしょうが、深セン株式市場の創業板に上場する華誼兄弟伝媒(300027)の大株主でもあることは、日本ではあまり知られていません。

華誼兄弟伝媒有限公司は、2004年11月に浙江省の華誼で設立された映画制作やTV番組や広告の制作を行っている民営企業です。
創業者の王忠軍氏とアリババの馬雲氏との関係や知りあった経緯は明かでないことも多いので省略しますが、2009年10月30日に「華誼兄弟」が、新設されたばかりの深セン市場の創業板に4200万株の株式を上場した際に第三位の株主として馬雲氏の名前がありました。
持ち株数は1310万株で、上場日の終値70.81元で計算すると、馬雲氏の持ち株の時価総額はおおよそ140億円にもなります。
馬雲氏のこの会社に対する出資額は約2億円程度であったことを考えれば、上場を目指す未上場の企業に出資することが、中国でも如何に有利な投資法であるかが理解されるでしょう。

誤解を招かないように申し添えておくと、馬雲氏は現在も「華誼兄弟」の株式約3330万株(時価で約90億円)を所有する安定大株主ではあります。
が、しかし、この間、株式約1100万株の売却益(約53億円)と現金利息1330万元(約2億円)で合計推定総額約55億円を手にしています。持ち株数が合わないのは、この会社が過去3回の決算で2度の無償株配(2010年3月に10株に対して10株、2011年に10株に対して8株)を行っているからです。

現在、深セン市場の創業板には、わずか設立されて3年ほどで、355社の企業(その殆どが民営企業)、毎年100社以上の企業が上場を果たしています。
ということは、馬雲氏のような莫大な上場時利得を得た人が、中国に少なくとも356人以上はいる、ということです。
更に、深セン株式市場には東証2部のような位置付けの中小企業板があり、700社もの企業が上場しています。
そうすると、上場を果たし、高額の上場時利得を得て、大富豪の隊列に新たに加わった幸運な民営企業創業者が、少なくとも1千人以上はいる計算になります。

かたや、お隣の日本のジャスダックやヘラクレスなどの新興市場の寂しい現状があります。
こういうところにも、日の出の勢いに乗る成長期にある中国経済と、日に陰りが鮮明になった成熟期を迎える日本市場の差が克明に現れていることを理解して頂けるでしょう。

2012/06/25

注)この記事は、過去のものからの再録の形で転載させていただいております。時事的に古い話題が取り上げられていますが、内容的には時間の風雪にも耐えられるものと思い、取り上げさせていただいております 。 

2013/05/18