戸田ゼミ通信アーカイブ トップページ >> 中国名言と株式紀行(小林 章)
中国名言と株式紀行(小林 章)
第62回 四000年を学ぶ中国名言/「長寿者は長者様です」
『老いの将に至らんとするを知らず(不知老之将至)』
出典【『論語』述而篇】
[要旨]歳とることを一切気にしない。老いなどどこ吹く風と、常に前向きに生きること。
この言葉は、孔子自身が自分のことを言ったものです。弟子の子路が楚の葉県の知事・葉公に師である孔子の人となりを尋ねられたが、即答できなかったことを師に頭を掻き掻き報告したのです。すると孔子が自分自身についてニンマリして次のように答えます。「こう言ってくれればよかったんじゃよ。孔子という男は、学問に夢中になりすぎると食べることも忘れ、興が乗ると楽しくなりすぎて悩み事などどこかに吹き飛んでしまう」そして、「やがて老いることなど一切気にしないでいる人間だ、とね」当時の孔子は六十才をいくつか超えた頃でした。五十才半ばで故郷の魯の定公の政治に愛想が尽きて、仕官を目指し他国から他国を巡る旅の途上でした。
「老いることを知らない」とはどういうことでしょうか。孔子の言葉を逆に捉えると「老化」とは、食事も忘れるほど学問に没頭したり、悩み事も忘れるほど楽しむことができない人が該当するようです。老化を防ぐというのは案外難しそうです。
そもそも、老いることを知らないほどの「長寿」とは、どうした原因と結果によるのでしょうか。
最近の科学的研究成果によると、長寿に関連がある「老化」や「寿命」は、もちろん個人差は認められるのでしょうが、旧来信じられていた遺伝的要因よりも、環境的要因の方が大きいのだそうです。
その要因的比率は、25%対75%と、圧倒的に環境要因の方が高いのです。その人の生まれながらの体質よりも、育った環境や生活習慣の方が重要なのです。
また、老化に影響を与える環境要因の中では、食事、運動、生き甲斐の順に重要性が認識されています。この環境三大要因中、食事がトップなのは、何よりもヒトの体はその「食べた物」そのもので出来ているからなのです。
中国に国連のユネスコが唯一認定している長寿村があります。「広西壮族自治区巴馬県」が世界有数の、その長寿村です。この広西省巴馬県は、中国の南西部、ベトナムとの国境に近接する地点にあり、省都南寧からも陸路7時間、距離にして約350kmの距離にあります。村の入り口には「巴馬長者村」と門のような看板が立っているそうです。
問題の「長寿者の住んでいる地区」は、更にそこから約1時間、車と徒歩で行った先にあるそうです。中国では長寿者は「長者」と同意だそうです。
2009年4月時点で、この閉ざされた山間郷に、100歳以上の長寿者が81人もいて、人口に対する長寿率は、まぎれもなく世界一だそうです。しかも、特筆すべきは、長寿者の殆どは現役で働いており、寝たきりの老人は見当たらないのだそうです。日本での100歳以上の長命者の約半数が寝たきりだったり、認知症を患っており、活動的な老人が23%ほどでしかないのとは、対照的といえるでしょう。
興味が湧くので、広西巴馬県の長寿者の食生活・習慣等で重要な点を列記してみます。
(1)毎食はトウモロコシやお米のお粥が主食である。
季節の雑穀(豆粉や火麻仁粉など)がお粥に加えられ、茶碗に1-2杯の7分粥が食されており、副食に季節の山野菜や薬草を少量の油(火麻仁油や大豆油)で塩と水を加えて、鍋で炒める簡単な料理が添えられる。
(2)1日の平均的な摂取カロリーを計算してみると、約1000kcal程度と少食であった。
(3)規則的な労働を尊ぶ風習と環境に適合した生活習慣が厳格に守られている。
(4)恵まれた自然環境(湧き水を飲水としたり、澄んだ空気やマイナスイオンの影響、年間を通して18-21℃の過ごしやすい気候など)にある。
長寿者の食事で注目されるのが、少食の習慣と主食のお粥習慣で、胃腸に負担が少なく、消化酵素の生成と働きを有効に抑えられる無駄の少ない食習慣と言えるでしょう。
いま「カロリス」(カロリー・リストリクション)が注目されています。カロリー摂取を通常の7割程度に控えると長寿になることがマウスやサルの実験から科学的に証明されています。ヒトの体も恒常的な飢餓状態を認知すると長寿遺伝子の活動にスイッチが入るのだそうです。こうしたカロリー制限を健康法に取り入れようという試みです。
また、食材では「火麻仁(大麻の実、種子のこと)」が調理で多用されている点です。火麻仁には、体や脳の細胞機能を若返らせたり、体の生理活性を促す作用のある必須脂肪酸が80%程度含まれているそうです。オメガ3といわれる必須脂肪酸のことです。
日本でも、平均寿命が年々延びて2010年では、女性が86.3歳、男性が79.55歳となったと、厚生労働省がこの5月31日に発表しています。
長寿の問題は、医療やバイオ技術の長足の進歩も重要ですが、いまやQOL(生活の質)の向上はもっと重要になってきています。高齢者が寿命を伸ばしても、それが寝たきりの延命技術に依るものであっては意味がありません。日本経済の今後は、高齢化社会到来といって暗いイメージを語るのではなく、高齢者がその経験と知恵を活かして第二の人生を有効に活用して日本経済の活性化の担い手になるというところに希望が見いだせるのではないでしょうか。私は、日本社会の浮上のキーは、若者は勿論ですが、別に働く高齢者と働くお母さん方が握っているのではないかと見ています。
31「長寿者は長者様です」
注)この名言は、邱永漢監修『四000年を学ぶ中国名言読本』(講談社)より抜粋させていただいております。
2013/03/01