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中国名言と株式紀行(小林 章)
第46回 四000年を学ぶ中国名言/「次の時代のメインストリートを歩みたい」
『倦むことなかれ(無倦)』
出典【『論語』子路篇/顔淵篇】
[要旨]職務、使命に徹せよということ。「倦(う)む」は、飽きあきして嫌になることで、その否定だから、自分の職務を途中で投げ出してはならない、与えられた役割を誠実に全うすることが大切だ、とする孔子の教え。弟子の子路から政治に携わる者の心得を問われて二言目に答えた言葉といわれる。ちなみに、最初に孔子は「これに先んじ、これに労す(率先して働き、民の為になるように心を砕き、いたわるのだよ)」と答えている。
孔子の若い行動派の弟子で「過ぎたるはなお及ばざるが如し(やりすぎは良くない)」と諭されたことで有名な子張も同様に孔子に尋ねている。孔子は「これに居りて倦むことなく、これを行うには忠を以てせよ」と述べている。
若いミュージシャンが、よく言う「諦めなければ夢は叶う」というコメント。カッコイイですね。そうした夢を語る一人の若者が、永遠の努力を続けることは、多くの共感する若者や大人も巻き込んで夢の続きを見ることを後押ししてくれればよいのです。
商売は俗に「商い」といい、飽きずに続けることだと諭されることがあります。まったくもってその通り。ここで諦めては、商売の成功はあり得ません。
しかし、待って下さいよ。いくら飽きずに続けるといっても、根気さえあれば一大成功を手にできるという保証にはならないでしょう。商売の道具立ては良いのか、方向性は間違っていないか、世の中の大変化に対応はできているか、資金面は大丈夫か、人材に不足はないか、などなど。
それでなくとも、心配の種は尽きません。まずは商品戦略です。扱う商品にオリジナリティがあるのか。ブランドのように強い商品性が必要だ。ありきたりで、陳腐な商品では勝負できまい。精々価格競争に巻き込まれるだけで、持続はできない。
また、消費者の要求は徐々に高くなっており、嗜好の多様化も顕著となっている。その商品サイクルも年々早くなっているではないか。
これは、近年言われる商品やマーケットに対する大きなテーマです。が、しかし、別の面から言えば、商品や市場の罠でもあります。こうした議論にはまり込めば、抜け出すこともできない喧(かまびす)しい「底なし沼の議論」でもあります。
また、中国市場の攻略のところで必ず取り上げられているのが、中国ビジネスは「富裕層」の旺盛な購買意欲をターゲットにせよ、ということです。
しかし、この戦略は、多くの企業では明らかに成果を上げていません。「富裕層」とは、一体どんな階層なのでしょうか。多くの日本企業はご存じないのです。その証拠に、日本の有名消費財メーカーが中国のトップシェアを取ったなどということをかつて聞いたことがないからです。多くの企業が「富裕層」を掴み切れていないのです。富裕層向けに高級品帯を狙って商品の品揃えをしていると言いますが、私にいわせれば、中国現地メーカーの商品との比較ために、ただ単に高いものを並べているだけです。それを富裕層ではなく、ただ単に物好きが買っているだけなのです。どんな最貧市場にも物好きは一定数はいるもので、勘違いしては困ります。
話を戻しますと、孔子は子路に政治の要諦を、率先して行動し、常に「民に寄り添う」ことだと言っています。同様に、商売でも民(=消費者)の要求するところの物や市場が必要とする物やサービスに寄り添ってビジネスを展開することが重要です。
商品のオリジナリティが無いからとか、ブランドとして認識されていないからとか、消費者の要求が高すぎるとか、商品の嗜好やサイクルが早く陳腐化しやすいとか、いくら嘆いたところで、市場は同情してはくれません。それらが商品の売れない理由にはならないのです。
何しろ自らの方が果敢にフットワーク良く動き、商売のチャンスを素速く見つけ、市場の長期的な動向を観察し、相場の大きな流れに繋がる小さな変化を読み、マーケットの要求に全力で応え、それを最適な時期に提供し、上手く消費者の購買意欲を引き出すことです。机上で考え、会議で議論の時間をいくら費やしても結果は付いてきません。どんな時代でも現在の有望商品は有望であり続けるわけではありません。また、リズムやパターンはクルクル変わりうるものですから、次に人の心を引きつけるものは何かを、現場から次のニーズとシーズを、見つけ出すよりほかに方法はないのです。今、一世を風靡している商品でも、時期が過ぎれば、サッと傍らによけて、次の時代の商品に黙って道を譲るものです。こうしたニーズの変化、シーズの存在に気づくことが、次の時代の商売のメインストリートを歩むことにつながるのです。商売を創造したい人、くれぐれも諦めてはなりませんぞ。
23「次の時代のメインストリートを歩みたい」
注)この名言は、邱永漢監修『四000年を学ぶ中国名言読本』(講談社)より抜粋させていただいております。
2013/01/28