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中国名言と株式紀行(小林 章)

第34回 四000年を学ぶ中国名言/「勁草政治家の出現」

『未だこれを得ざるときは、これを得んことを患う(未得之也、患得之)』
                                   出典【『論語』陽貨篇】
[要旨]地位に恋々とし、それに固執するような者と、一緒にはとても働けないの意。
孔子は「とかく器の小さい人間は、希望の地位に就けないと、その地位への羨望で心が安まらない。たまたまその地位を得たとなれば、今度は地位を失いはしまいかと気がかりでならない。保身に走れば、どんな手段も執りかねないものだ」だから、こうした小人とは一緒に主君に仕える官位に止まるのは勘弁願いたい、と言っているのです。

政治家、官僚、管理職の利権への執着と自己保身の傾向は、古今を問わずあるようで、大いなる野望を持って立候補や仕官を果たす者は必ず、その境遇に接近遭遇を経なければならない時があり、心に迷いと葛藤をもたらします。しかし、そもそも権力とは、そういう性質の立場でもあるわけです。類は友を呼ぶとか、朱に交われば赤くなるという諺にもあるとおり、小人と交遊とまで行かなくとも、同席する立場にあれば、危うい空気に馴染むこととなります。

現在中国では、利権にありついた有力官僚が汚職にまみれて、調子に乗って遣りすぎ目立ちすぎの果てに告発を受け、権力乱用、国家財産の横領、収賄による不正蓄財、風紀紊乱(女性問題)などの腐敗行為による重罪犯として逮捕され、政治生命を失ってしまうようなことが度々起こっています。こうした実に不名誉で残念な官僚のことを「落馬高官」などと呼びます。

近年中国では、政府が率先して、利益集団の「鬼」となった官僚達の私生活を暴露し、反腐敗撲滅運動を強化するようになっています。中共の新聞網(ネット)には、新中国誕生以来の高級官僚や政府指導層の重大腐敗事件が列挙されるまでになりました。
中国政界でも、今まで考えられなかったような指導者養成プログラムと選抜システムが進行しているようです。それは、共産党がこれ以上民意を失わないように、反腐敗体質への転換へと細心の注意と大胆な政治改革に取り組もうとしている現れのように思えます。

それは、共青団(中国共産主義青年団)、所謂「団派」政治家の台頭です。共青団は、中国共産党による指導のもと14歳から28歳の若手エリート団員を擁する青年組織で、中国全土津々浦々に張り巡らされた下部組織を持つ叩き上げの政治組織で、将来の中央政界に進出する可能性のあるエリートの登竜門となっています。団員数は約7544万人(07年末現在)で、既に地方政界でも1/3の勢力となっています。多くは大物政治家のヒキによって階段を上るようになっていますが、選別の基準はその活動手腕や風格態度、上司の推薦に依るようです。全国から広く、若くて有能な人材を登用しようという訳です。日本の地盤看板を引き継いだ二世世襲政治家の仕組みとは明らかに異なります。

また、こうした地方から育った若い「勁(つよい)草」政治家が中央政界に進出して、不正蓄財や腐敗の温床となった太子党(中国共産党の高級幹部の子弟等で特権的地位にいる者達)や中央官僚派を凌ぐ活躍をしています。かつての政治構造や権力風潮も、日々変質を余儀なくされているのです。そうしなければ、政権の未来も無いからです。
                                 17「勁草政治家の出現」

注)この名言は、邱永漢監修『四000年を学ぶ中国名言読本』(講談社)より抜粋させていただいております。 

2013/01/04