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中国名言と株式紀行(小林 章)

第23回 四000年を学ぶ中国名言/「魚を釣るには長い糸が必要だ」

『一将功成りて万骨枯る(一将功成万骨枯)』
                             出典【『三体詩』曹松「己亥の歳」】
[要旨]自分の権勢欲と金欲とで立身出世を成し遂げた大将の下には、その犠牲者となった名もない兵卒の累々たる屍が横たわっている。
かつての大帝国も晩唐の頃には、各地で反乱が起き、時の将軍や節度使(地方長官)は、乱を鎮圧できる機会がありながら、自分の功名ばかりを考え、将軍の保身のための戦いで農民は流亡させられ、兵士にかり出された者達も次々と命を落としていく様を嘆いたもの。

国の経済力も、その成熟化に伴って、伸びしろが減り、かつての勢いが無くなって、個人の営業成績も伸びは鈍化しがちです。自らが営業現場で第一線級の成績を誇った営業マンも、その実績と経験を見込まれて、今では昇格を果たし数々の部下を従え、指導に汗を流す日々に変化しています。ところが、昨今の経済の状況変化に、部下よりも自らの方が勝手の違いに戸惑うことや悩むことが多くなってしまいました。

市場のパイが増えるよりも、減るなかで、大手企業はその力にものを言わせて、連合合従と資本の系列化の果てに、優良顧客を囲い込もうと躍起になっています。まるで底引き網を仕掛けて総取りを画策しているのです。こうした市場戦略は合理的だと思われますが、本当は、あまり良いやり方ではありません。競争が少なくなったらなったで、安心できたと思ったら、次は営業成績自体も減少に向かうからです。理由は、市場に適正な競争が無くなり、顧客が急速に商品に興味を無くしていくからです。

一社寡占で安泰は、万社の凋落の結果ですから、あまり褒められたことでもありません。逆に、市場自体に草木も枯れるような寂しい風景をもたらしてしまうかも知れないのです。
企業は本来、その活動において、利潤の追求に終わりがあってはならないものです。もし、途中で力尽きるなら、その時が企業のいっかんの終わりとなります。
目先の利益に囚われて、一人で儲けを独占しようとしてしまったことで、一人勝ちどころか、結果として市場の総崩れを招いてしまったことになります。

強欲は、慎むもので、仮に10の利益があれば、自らは6で満足し、残りの4は敢えて他社に稼がせるという姿勢こそが、実は市場を健全に永続させる秘訣なのです。
中国に「魚を釣るには長い糸が必要。損もすれば得もする」という言葉があります。意味は、大物を釣り上げるには長い糸が必要なように、商売でも、大きな利益を得るには長い目で見ることが重要だ、ということです。
目の前の利益に目が眩んで、強欲をかくと、企業にとって本当に大事であるはずの長期の利益を失ってしまうということです。その後の結末は、いわずとも、もうお分かりでしょう。

統計学では、支配権を持つ側が相手に分配の提示を行って、彼の収益が最大化するのは65:35という分配比率を提示した時だそうです。6対4の利益分配には、まあ合理性があるようですね。
                           12「魚を釣るには長い糸が必要だ」

注)この名言は、邱永漢監修『四000年を学ぶ中国名言読本』(講談社)より抜粋させていただいております。 

2012/12/15