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中国名言と株式紀行(小林 章)

第11回 四000年を学ぶ中国名言/「ガラスの80后、90后」

『危うきことなお累卵のごときなり(危猶累卵也)』
                                  出典【『韓非子』十過篇】
[要旨](国や地位が)いつ崩壊するかもしれない、きわめて危険な状態にあること。
累卵は積み重ねた生卵のことで、ちょっとした振動でも崩れて割れてしまいかねないほどの危うい状態をいう。

春秋時代の晋国の皇太子重耳が父献公から国を追われ、放浪の旅先で立ち寄った曹国で国王共公に冷遇され辱めを受けたため、自ら文公となって晋国に復帰した後、曹を征伐して屈辱を果たしたとされます。累卵とは、こうした無礼をはたらくことの危うさを生々しく伝えるための絶妙の喩えと言えます。

国家もその存立形態に応じて、その臣民に対する対処の仕方は、自ずと異なってきます。
新中国は共産党政権によって維持されてきました。現政権の掲げる「和諧社会の実現」(ほどほどに豊かさが享受される社会の実現)とは、今までの「向銭看」(お金に向かって進め)の傾向への、行き過ぎを揺り戻す(是正する)という発想からの創意を得たものです。
中国の歴代の政権は、政策や改革の行き過ぎやその揺り戻しの繰り返しによって成立してきたともいえます。そういう意味でも「累卵の危うさ」を繰り返していることになります。

日本でも「ガラスの十代」という歌謡曲が一時期流行ったことがあります。
やはり、壊れやすい危うさを歌ったものだったように記憶していますが、青春時代の心理状態を扱う「ガラスの危うさ」と比べて「累卵の危うさ」とは天下国家に関わるような場合などで多用されるとの認識が中国にあります。まさに、一大事、オオゴトだ、との認識です。

いま、中国の社会問題を論じる場合、必ず引き合いに出されるのが「80后、90后」の問題です。どうして特定のある「年代」が問題になるかというと、1979年から始まった「独生子女制度(一人っ子政策)」によって産み出された世代のことだからです。この世代以降の子ども達は「小皇帝」や「小皇后」とも呼ばれます。

そして、この世代の子ども達が社会に出て、何かと問題の多い世代といわれています。現に「80后」の人口は、2億人以上いると言われており、この世代の最高齢が、すでに30歳を超えてきています。
特に、今問題なのは、この「80后、90后」が、5億人を超えたと言われるネット社会の50%以上のユーザーとなり、中国社会のみならず国の政治の動向さえも左右する「網民」として、大きな世論を作り出していることです。

中共中央が打つ民生政策は、これらの「網民」に対して行われている、とまで言う人もいます。「網民」対策予算まで組まれているそうです。天下の政(まつりごと)も、一歩間違えばネット上で政策の綻びを叩かれたり、不都合な役人の真実が暴かれたり、地方政府の不正に一致団結を促すような--考えたくもない事態がネット上に出現したらと、政府高官は「累卵の危うさ」を感じる場面がこれからも多くなることでしょう。まことに、お気の毒です。
                                 6「ガラスの80后、90后」

 

注)この名言は、邱永漢監修『四000年を学ぶ中国名言読本』(講談社)より抜粋させていただいております。

2012/11/21