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中国名言と株式紀行(小林 章)

第3回 四000年を学ぶ中国名言/「青藍事情」

『青はこれを藍に取りて、藍よりも青し(青取之於藍、而青於藍)』
                                    出典【『荀子』勧学篇】
[要旨]門弟が、学問や才能、技能において師を超えることのたとえ。
青黒い現在の自分を、鮮やかな青に変える努力、つまり、絶えざる自己研鑽・自己向上の大切さを説いた言葉。「青は藍より出て-」とする諸本もあり。「出藍の誉れ」は、そこから生まれた言葉。

私の近しい知人に、天津郊外で藍染めなどの絞り技法を使用して、日本のアパレル大手に衣料の委託製造・輸出をしている人があります。最近、偶然顔を合わせる機会があり、近況を聞くと、日本での販売がパッとせず、思い切って天津の伊勢丹に自前店を出店する計画を立てているとの話でした。今やアパレルなどの委託製造業もその存立を真剣に考えなければならない時代になってしまったのです。

話を師弟関係に戻すと、中国の近頃門弟事情は、クールで自己中心的な時代になりつつあるようです。
私の工場でも、生産部の台湾出身の黄部長が、家庭の事情で工場を去ることになって、それまでの製造のノウハウや経験記録をノート10冊にまとめ、可愛がっていた中国人の若い副部長に引き渡すことになりました。黄部長から私に引き継ぎの報告があり、私もホッとしたところでしたが、いざノートの所在を副部長に尋ねると、無いの一点張りです。そんなはずもなく、工場にとっての知的財産ですので、あくまで追求していくと「確かにノートは渡されたが、それは個人的に譲られたものだ」と言うのです。
結局、ノートは会社に返却されず、その後彼も工場を辞めましたが、今も彼の所有物となったままです。

また、仕事熱心なのを買われて、工場の技術部長から工具の管理を任されていた技術主任が、工具室の鍵を預かったのをよいことに、勝手に工場から少しずつ高価な工具を持ち出し、お金に換えていた事件が発覚しました。
この件で、生真面目な技術部長の面子は大いに失墜することになりました。
がしかし、事はそう単純ではなく、大胆な所行を人に知られずできたのも、子弟の良い関係が先にあって、初めからグルだったのだと、後からの噂で知ることとなりました。

こうした、師匠の顔に泥を塗るような子弟の振る舞いは、単純には、自分を磨き、いつか師匠を超えて、恩に報いる、といったような美談を想定しづらいものにしています。
良き職業的徒弟制度も、今や中国都市部でも、就業希望者の高学歴化が進んだことで、ブルーカラーよりも「白領」と言われるホワイトカラーを目指す学生が殆どです。「領」はシャツの襟のことです。ちなみに中国では、ブルーカラーのことは「藍領」と呼びます。
                                       2「青藍事情」

 

注)この名言は、邱永漢監修『四000年を学ぶ中国名言読本』(講談社)より抜粋させていただいております。

2012/11/05