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酒の道、食の道(金城拓)

第18回 一人酒の勧め

私はよく一人で居酒屋やバーなどに行きます。
その話を先日とある人にしたところ、
「一人酒は難易度高いですよ〜」と言われました。

なるほど、考えてみると、私も去年の夏くらいまでは
一人でお酒を飲みに行くことには抵抗がありました。

最初に一人酒をしようと思ったのは、
去年のものすごい猛暑の日に、
どうしてもベルギービールの
ヒューガルデン・ホワイトが飲みたくなったからです。

とはいえ、会社を出たのは21時過ぎ。
そこから以前紹介した新宿のフリゴまでは
ドアtoドアで1時間くらいかかります。

友達に連絡して22時に店で待ち合わせしようかとも
思ったのですが、この時仕事がとても忙しく、
あまり夜遅くまで居ると疲れを翌日に引きずってしまうので、
さっと飲んで帰りたい、という思いがありました。

そうは言っても、最初から最後まで一人で飲むのもなぁ・・・
という思いもあったのですが、あまりの暑さに負け、
結局一人でお店に向かうことにしました。

通いなれた店だったから、というのもありますが、
あまりあれこれ考えず、えいや!という感じで
いつものドアを開けます。

さすがにものすごい暑い日だったので、
平日だというのに店内は人であふれています。

席には座れず、通路にあるカウンターで立ち飲みです。
見知った店員に「混んでるね〜」などと軽く話しかけながら、
お気に入りのビールと料理に口をつけます。

いつもは友人と喋りながら味わっていた
ビールや料理がまた一味違って感じられます。

というよりも、おしゃべりに夢中になって、
味を十分堪能できていなかったことに気づきます。

ほかに話し相手が居ないと、
真正面からお酒と料理に向かい合います。
好きなだけ物思いにふけったり、
ボーっとしたりできます。

忙しいときというのは、
なかなか自分の時間がありません。
仕事と日常生活の行ったり来たりで、
そのどちらにも疲れてしまったりします。

一人酒はそのどちらとも切り離され、
自分だけの時間を作り出すことができます。

店内の喧騒に溶け込むでもなく、
浮く訳でもなく、奇妙な一体感と
孤独感の中で自分と酒と料理と向き合う。

贅沢で芳醇な時間が一人酒なのです。

2005/12/15