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散歩しながら(ぼうちゃん)
第99回 楽しみのひとつ
朝の一杯のコーヒーが
大好きだという知人は
趣味でコツコツ集めた
コーヒーカップの中から、
今日の為のカップを選ぶ時間が
楽しみのひとつ、
と言っています。
誰でも何か自分だけの楽しみを
持っているものと思いますが、
それは子どもが
汚れたぬいぐるみを捨てられない
宝物のように大事にしている
気持ちと同じで
個人的なことであるほど
その楽しみ、大切さは強いものです。
子供の頃の夏休みにはかならず、
私は都会から帰省してくる
叔父や叔母を
田舎の駅で祖母と一緒に出迎えました。
ひまわりの花が咲き
入道雲の夏の景色と
叔父叔母に連れられて
汽車から降りてくる小さい従弟が重なります。
この夏休みが
わたしの宝のぬいぐるみになっています。
小学三年生の夏です。
従弟と並んで
駅から祖父母の家に向かう
夏の白い街道。
前を行く日傘をさした叔母と
荷物を抱えて颯爽と歩く叔父の後姿。
蝉の声が街道を曲がるときに
聞こえたことも覚えています。
若くして叔母は亡くなり、
従弟もその後けっして
平穏な暮らしは出来ませんでした。
しかし幾つも同じような夏を経験したのに
私にとっては
あの白い街道が特別な夏になっています。
小学三年生の子どもが
そのときだけ何故か感受性が全開で
いわゆるコッチからアッチに
繋がった瞬間だったような気がします。
もちろんその時だけのことで
あとはザリガニ取ったり
小鮒を釣ったりの
子どもらしい遊びに明け暮れていました。
いまも喫茶店で
窓外の人の流れを眺めているとき
時折あの夏のことを思い出しますが
かけがえのない
私だけの楽しみのひとつです。
2011/12/23