戸田ゼミ通信アーカイブ トップページ >> 散歩しながら(ぼうちゃん)

散歩しながら(ぼうちゃん)

第93回 人の気持ちは

▽の祖父ですがお世話になります。
恐縮ですが
トイレをお借りしたいのですが、
といって見えた人がいました。

その人の孫娘はまだ治療中で
時間がかかっていました。

外で待っていたが寒い日だったので
中に入ってきたようです。

治療が終わり
孫娘は待っている祖父にかまわず
飛び出していきましたが

その人は立ち上がってこちらへ
挨拶してくれました。

帽子をとって
お世話になりましたと
軽くお辞儀をしました。

わたしは
この人の立ち居振る舞いの見事さに

おもわず立ち上がって
いやいやどうもご苦労様なことです
と答えましたが

じつに見事な動作でした。


無駄な動きがなく
立ち止まり、帽子を脱いで

軽くお辞儀をした一連の動作が
じつにサマになっていました。


礼とはかくあるべきだと感心しました。
合気道でもやれば
肩の力が抜けたいい技だろうなと
思わせるものでした。


将棋の羽生名人が二十代の頃
当時の米長九段が

羽生名人を評してこの若さで
実力はもちろんのこと

名人の言動立ち居振る舞いの
見事さはいったい何だろう、

こういう人を生み育てたご両親は
いったいどんな人なのだろうと
実際両親に会いに行ったそうです。

会ってみたら
さもありなん

この両親あっての羽生名人であると
納得したそうです。

 

わたしは合気道を長年稽古していますが
そのなかにカトウ君という高校生の
何とも爽やかな感じのいい若者がいました。

この子は年上の人にはすべて先生と呼んで
分け隔てなく素直に稽古を付けてもらっていました。

この年頃の子は少し上手くなると
相手を選び下手な先輩を小馬鹿にしがちです。

ある日の稽古のとき
たまたまこの子の両親が見学に来ていて

わたしも紹介されましたが
静かで控えめな印象の人でした。
この親にしてこの子あり、と感じました。

いま東大の合気道部で稽古をしていますが
文武両道の若者でした。

わたしの高校生の頃に比べると雲泥の差があります。

 

わたしが若いサラリ-マンのとき
隣の課の上役はいつも不機嫌で
挨拶をしても碌な返事をしてくれませんでした。

こちらが嫌だなと思っている人は
向こうも嫌っているに違いないだろうと

廊下やエレベ-タ-で会うのを避けていましたが
いつもそう都合よくはいきません。

ばったり廊下で会ったときには
嫌だと思いながら
オハヨウゴザイマスと挨拶をしていました。

ろくな返事が返って来なくても
こちらから挨拶をし続けていたら

ある日その上役が
見たこともない笑顔で
М君どうかねと声をかけてきました。

はい?

突然まさかの人から
声をかけられ何だかわけが分からず

キョトンとしていましたが
話の内容は仕事の他愛無いことでした。


しかし日頃いつも不機嫌で
挨拶などしない人が
向こうから口を開いたことに驚いたわけです。


挨拶が嫌いな人でも
相手に挨拶されることは

嫌じゃないんだと
若いサラリ-マンは悟ったのです。(笑)

人の気持ちは計りがたし、です。


人は自分が思っているほどには
思ってはくれていないもの

というのは真理だろうが
だからこそ
その裏をかくと
面白いことが分かるものです。

2011/11/18