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散歩しながら(ぼうちゃん)
第81回 もう決めてある
本を読むのに
もっとも理想的な読み方は、
勉強とも仕事とも
無関係に読むことだと思います。
ただ好きな本だけを気の向くままに読み、
途中で飽きたら放り出し、
またその気になったら
手に取リ直すといった
気ままな戯れのうちに読むのが一番。
雨が降って外に出たくない日、
本棚から雑然と
何冊もの書物を取り出して
ベッドのなかで読み続けます。
飽きたら散歩に出る。
晩夏の夕暮れ、雨もやみ
つくつく法師が必死で鳴いている。
草叢にはこおろぎ、鈴虫、きりぎりす。
ひと汗かいたら
晩酌には秋田の高清水
新潟の〆張鶴の大吟醸が
冷やしてあるのを楽しみに。
過去の恥ずかしきことの数々は忘れ、
将来の考えても仕方がないことには構わず
いまこの散歩していることだけを
楽しむのが散歩の極意かな。
少年のときに見た老人のように
矍鑠として
背筋伸ばして歩いてみることにする。
顔つきも決めてある。
口をへの字の頑固な爺さんではなく、
かと言ってへらへら笑っているような
軽薄なのでもなく、
飄々として
浴衣と下駄と夏帽子。
やがて
夏の夕暮れのなかに
スッと消えてしまう。
2011/09/16