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散歩しながら(ぼうちゃん)
第78回 少年の友よ
わが友よ、
わが過ぎし少年の友よ、
汝は知るや、
なつかしき幻燈の夜を、
ほの青き
ほの青き雪の夜景を、
水車(みづぐるま)しづかにすべり、
霏々(ひひ)として綿雪のふる。
北原白秋の『思ひ出』という詩
などを書いたりするのも
旧友を見舞い少し感傷的になっているからです。
中学時代の友人の一人で
時々集まりにぎやかに一杯やっていました。
その彼から数日前に、
お前だけに話しておくと電話がありました。
九月初めに入院して六日に
手術が決まったのだといいます。
口の中の癌で手術は難しく
十時間は覚悟しなくては、ということです。
気が重いが他の仲間にも連絡して
昨日入院前の彼に会いに行ってきました。
まだ痩せたわけでもなく
むしろ太りすぎでいつも皆にからかわれていたくらいですから
体格もよく声も大きく元気なところを見せていました。
自分の病状を笑いながら話すのを聞いていると
とてもそんな大病には思えませんでした。
しかしわれわれの会話は途切れがちで
出された麦茶のコップを
思い出したように口に運んでいました。
もう私たちの歳では
こういう経験はめずらしいことではないのでしょうが
いざ実際、病の友を目の前にすると
やり切れない気持ちになります。
夏が終わり
あいつが入院する日の朝は
台風のため土砂降りでした。
2011/09/02