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散歩しながら(ぼうちゃん)

第64回 生きている人死んだ人

山本夏彦の吐く辛辣な言葉が好きで
若いときからこの人の本を買い集めてました。

後年あんなに売れるとは思いませんでしたが
初期の頃は古本屋でやっと見つけては買いました。


氏は2002年87歳で亡くなりましたが、
本音でせまる辛口コラムニスト、出版社の社長で
工作社のインテリア雑誌「室内」編集長でした。

 

「ワイロは浮き世の潤滑油である。
貰いっこない人は自動的に正義漢になるが、
一度でも貰ってごらん、人間というものが分かる。

古往今来正義の時代は文化を生まなかった。
文化は腐敗の時代に生まれた」


こう言われると腹にストンと落ちて、
何か現在のいろいろなニュ-スで
モヤモヤしていた気持ちがすっとします。



「タバコの害についてこのごろ威丈高に言うものが
増えたのは不愉快である。

いまタバコの害を言うものは、以前言わなかったものである。
いま言う害は全部以前からあったものである。

それなら少しはそのころ言うがいい。
当時何も言わないで、いま声高にいうのは便乗である。

人は便乗に際して言うときは声を大にする。
正義は自分にあって相手にはないと思うと威丈高になる。

これはタバコの害の如きでさえ一人では言えないものが、
いかに多いかを物語るものである」


私はタバコを吸いませんが、
タバコ吸いの身だったらおそらく
いまのタバコバッシングには
腹に据えかねたものがあるだろうと思います。

肩身が狭いところへ
便乗して声高に正義を振り回されるわけですから。

 

「私は衣食に窮したら、何を売っても許されると
思うものである。
女なら淫売しても許される。
ただ、正義と良心だけは売り物にしてはいけない」


以前このコラムにも書きましたが
人間本当に食うに困れば泥棒したっていいんだ、

と言った吉本隆明の言葉と根っこが同じです。
こういう人は信用できます。


私の叔父は彼らのような教養などありませんが
一緒に山に登るときや酒を飲むときに
なかなか核心を付くことを言っていました。

もう死んでしまいましたが
もし私が面と向かって、
叔父さんは本なんか読まないのにいいこと
言うじゃない
と誉めたりすれば、
よせやい、と照れるに決まっています。


この叔父もそうですが
山本夏彦、吉本隆明、
夏目漱石も三遊亭円生も、

今生きている人死んだ人
関係なく彼らと話が出来る得意技が
私にはあります。(笑)

2011/07/12