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散歩しながら(ぼうちゃん)

第55回 過ぎてしまえば

落語好きの病が高じて素人会ができまして
先ずは手始めに誰かが伝手で
某女子大にコネをつけてきました。


大学の講堂を舞台にしましたが
そのときは5,60人の女子大生を前にして
私は湯屋番という落語をやりました。


そして噺半ばで真っ白になり
台詞がまったくどこかに吹っ飛んでいきました。

うまく場をつなぐなどという芸当は
出来るはずもなく数分間呆然としていました。

30分にも1時間にも長く感じましたが
数分のことでしょう。

汗びっしょりで舞台から降りましたが
いやはやどうも、です。


それが懲りずに後日、
市民会館のホ-ルで
300人を相手に落語を演るとは
正気の沙汰ではありません。


このときはよりによって
付き馬という廓噺でした。

時代考証やら複雑な人物描写で
プロでも真打でなければやらないという
噺をかけてしまうのですから恐ろしい。

今思い返しても汗顔、赤面の極みかな、です。

案の定、
手に負えない噺ですから
受けるはずもなく、

受けなければ素人の悲しさで
焦りまくり
力むからなおさら滑り、
目も当てられない惨憺たる出来でした。

もっとも当人が出来を気にして落ち込むほど
観客は期待しているわけではありません。

そりゃそうで素人がどう逆立ちしたって
上手いわけなく
よかったよ、やるねえ、熱演だったよと
あとで言われた記憶があります。


時間というものは有難いものでして
あれほどの赤っ恥をかいた無残な記憶も
薄れてしまい
いまではむしろ懐かしく思い出したりしています。

特別な経験や恥っかきは若い頃にしておくべきです

などと、むかしを忘れて、したり顔するのも
呆れたものです。

2011/06/10