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散歩しながら(ぼうちゃん)

第24回 人間臨終図鑑

本は出来るだけ身銭を切って買うようにしています。

 

図書館で借りて読むのも良いでしょうが
自分の本なら隅を折っても赤線を引いても自由です。
またいつでも思い付いたときに読めます。

新しい本はヒミツの扉をひらいてくれます。

古い本もそのときどきの生きた時代に出会えます。

本の効能は何かといえば
まず本を読むことが
すなわち効能だと思います。

 

ページを自分でめくるということが重要で、
ページをめくって読んでいれば
いやでもモノを考えるようになるからです。

本は机の上や畳に積み上げてありますが
書棚もいくつかあり、そのなかで寝室の書棚には
一番気に入っている本、読みたい本を入れてあります。

その書棚の入れ替え整理をしてみたら

邱永漢、吉本隆明、小林秀雄、司馬遼太郎のものは
それぞれ数十冊になるから驚きました。

長いことずっと読んできたのでしょうね。

 

今日は 「人間臨終図鑑」 という本を紹介します。
山田風太郎著の異色の本です。

いまは文庫も出ていますが
私の持っているのは徳間書店の大型版上下巻のものです。

古今東西923人の死にいたる様子を
細部にわたって書いていますが

臨終場面だけでなく
伝記の核心部分にふれるように
故人の生きかたを伝えています。

著者の短い補足が面白く

三十代で死んだ人々・・・神は人間を賢愚において不平等に生み
            善悪において不公平に殺す 

三十二才で死んだ人々・・同じ夜に何千人死のうと
            人はただひとりで死んでゆく

五十三才で死んだ人々・・最愛の人が死んだ日にも
            人間は晩飯を食う

と著者独特の死生観を披露しています。

 

この本は万人に平等に訪れる死でありながら、
それぞれの死の詳細を描くことで
生について深く考えています。

 

歴史上の人物や身近な俳優、作家などを取り上げて
興味ある生前の交友関係も分かり、
面白く読めます。

「父上様、母上様、三日とろろ美味しゅうございました。
干し柿、モチも美味しゅうございました・・・
幸吉はもうすっかり疲れ切ってしまって走れません」

という遺書を残して二十八才で死んだ
東京オリンピックの円谷幸吉にも触れています。

円谷幸吉について
川端康成が、千万言も尽くせぬ哀切。
三島由紀夫が、壮烈な武人の死、と哀悼しています。

 

この本は
人の臨終について書いているにもかかわらず
その人の人生、生き方を浮かび上がらせて
不思議な本です。

 

「死を初めて想う。それを青春という。」-山田風太郎

ぜひ一読を。

2011/03/02