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散歩しながら(ぼうちゃん)
第108回 いい顔
いい顔している人には
幸せ者が多いと思います。
また彼らを見ていて気付きますが、
共通点は寛容であることです。
何でもない事が
楽しいようでなくてはいけない
いい顔をしている人は
この点でも共通しています。
なかなかこのいい顔になるのは
容易ではないようです。
身近な例で言えば
幸せかどうか分かりませんが
今私は痴呆の母と
一緒に暮らしています。
この母は父が死んでから
何年か実家に一人で居ましたが
もともと我が儘な性格でしたから
家族はもちろん親戚一同も
手を焼いていました。
六年前から我が家に
住むようになってからも
初めは理不尽なことは言うし
ヒステリ-は起こすし散々でした。
その頃から痴呆が進んでいたのだと思います。
ところが
デイサ-ビスやショ-トステイの
施設と我が家を行き来するうち
しだいに性格も穏やかになりだして
以前のように手におえないことは
なくなってきました。
痴呆は誰もなりたくないものですが
母に関してはむしろ良かったと思います。
天の配剤、神の加護です。
冬の日だまりの縁側で
日向ぼっこしている母に先日
古い一葉の写真を見せました。
セピア色のそれは
私が小学三年生ですから
母は33歳です。
55年も昔のものです。
祖父の家の縁側で
私の肩を抱き二人並んで座っています。
いったい誰?
と聞きますから
若いときのおふくろだよと言うと
へえ-っと写真に見入っていました。
しかしものの五分もしないうちに
忘れてしまい
いったい誰?
となります。
古い写真を見て
痴呆の母の顔が
いい顔になる瞬間が
あったような気がしました。
神か仏か
目に見えない何かが
降りてきたのかと思いました。
2012/01/29