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散歩しながら(ぼうちゃん)

第104回  気持ちのよさは

風が吹いて、花が散る。

初めての幼い恋はつかの間で、
時がこぼれるように消え去り

今になっても忘れられない
思いだけが残る。

サヨナラだけが人生だけど、
人の心移りは、死に別れより淋しいものだ。


遠いむかしの人が詠んだ歌のサヨナラ

恋人の垣根はいつか荒れ果てて

野草の中ですみれ咲くだけ


好きだった人を思い出し、
荒廃した景色を見ながら
放心する姿が、目に浮かぶ。

東北の絶望のなかでは
人はほとんど言葉を失っているだろうが

廃墟の中でまた野草の花が咲く。
無残なり、酷なり。


だから、そうだからこそ
今この一瞬を生きるしかないのが

哀れなるわれら人間であると。


旅はひとを
感傷的にさせるモンですなあ
とかつぶやきながら

町の中を流れる白川沿いを歩いていくと
いつか店の前に立っていました。


京都ネ-ゼという知る人は知る
予約がなかなか取れないという
イタリアンの美味しい店。

もっとも私は初めてです。
カウンタ-とテ-ブルで
十人程度しか座れない小さな店です。


ここで約三時間飲み食いしましたが
料理はもちろん美味かったのですが

わたしがいたく感心したのは
ワインをどのくらい飲めるかと聞かれ

同伴の妻は飲めないので
ワイン一本は空けられない

せいぜいグラスに三杯と言うと
何と六種類でグラス三杯分
のものにしてくれました。

白ワイン三種類
赤ワイン三種類

それぞれ産地が異なる
軽中重の味を堪能できたことです。


さらに接客の
気配り目配りが利いていて
それでさり気ない。

飲食業の一流のプロは
こういうところが違うのか

気持ちのよさは
ワインの味だけではないな。

グラスに映る顔が
次第に酔ってきました。

2012/01/09