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中国名言と株式紀行(小林 章)

第131回 中国・天津より/中国株日記 (64)

【NO.67】中国、天津より(5)
久方ぶりに、中国の北京と天津を歩いてきました。
中国訪問中、気候は一気に春モードに切り替わり、鞄に押し込んできたセーター数枚や厚手のダウンジャケットや羽織っていったコート類が移動中の重いお荷物に早変わりしてしまったことが旅の目的を暗示するような事態を招いたのです。
さらに見上げると、北京や天津の空を覆うどんよりした霞のような重苦しいスモッグにも晴れやかな気持ちを抑制させるような効果が見られるようでした。

ホテルのテレビをつけると3月5日から開幕する「両会」(全国政治協商会議と全人代のこと、日本でいう国会開催にあたる)の話題で持ちきりでした。今回は習・李新政権発足という話題性のほかに、テレビに両会の地方代表代議員が盛んに露出して、各主要政策テーマごとに様々な意見が交わされましたし、全国の「老百姓」(庶民)の声や調査結果をもとに議論百出の演出が成されていました。こうした政治・政策に対する庶民の要望が国会(両会)開催にあわせて提出・検討・議論されることは、かつてなかったイベント性に彩られた演出と言えるでしょう。中国は豊かさを背景に確実に変わりつつあります。まだまだ大きな経済格差や矛盾が厳然とあるにもかかわらず「国の勢い」に余裕すら感じられるほどです。
テレビは盛んに新政権のテーマである「美麗中国(美しい中国)」「小康社会(ゆとりのある社会)」の建成を強調しています。

今回の訪中に際して、数冊の本を携帯していくことにしましたが、そのうちの2冊は現在中国経営者のカリスマとして人気の高い清代末の「紅頂商人」・胡雪岩について書かれた邦書です。胡雪岩は日本ではその名前を知る人は殆どいませんが、中国ではテレビドラマシリーズでも絶大な人気を博し、知らない人のいない程の著名で尊敬される経済人です。
貧しい家庭に生まれ、商才と人の能力を見抜く力に長け、優れた政商として官位を与えられた人物です(てっぺんに赤い丸珊瑚の付いた帽子を被ることを許された=皇帝から官位を与えられた商人ということで「紅頂商人」と呼ばれる)。
胡雪岩は自らの重要な商売理念に「勢力と利益」ということを掲げていました。すなわち、事業展開する上で他人や経済の方向をうまく借りたり利用したりしてチャンスを逃さず、勢いを結集して基盤を築き、自分で勢いを作り拡大し、またその勢いに乗ることで「利益」は当然生み出されてくると考えていました。「借勢取勢」という理論です。こうした「勢い」を生み出す能力が経営者の主要な能力だ、と述べています。彼は「商売の勢い」を重視し「商売上手になるためには、商売の勢いをしっかり把握しなければならない。勢いをちゃんとつかむと同時に、その利用に長けなければならない」と述べています。
簡単に言えば、商売でも何でも利益を得ようとするなら、目先の小さな利益に囚われず、チャンスを見過ごさず、自らリスクを取り、人のやれないこと、やりたくてもできないことをやるべきだ。そして「経済や市場の勢い」や「人の勢い」を借りてでも「勢い」に乗り、その「勢い」を集めて基盤を築き、また自ら「勢い」を作り出し調整して、大きな利益に結びつける、といっているのです。
こうした「勢い」に乗り「勢い」を作り出すという発想は、時勢や潮目を観察し、経済の成長をしている勢い、人々の欲望やベネフィットに寄り添い、お金のうねりや流れの方向に取り込まれて、そうした勢いや流れを利用するということです。
まるで、この考え方は株投資で短期で利益を狙う「モメンタム投資法」そのものといってよいのかも知れません。その考え方も含む投資に関する思考です。
それも、やはり総合的な国力の勢い、経済や資本市場の上昇機運に積極的に関わることでしか「勢い」は容易に得られないのではないでしょうか。

話の前置きがだいぶ長くなりました。
今回の中国訪問の目的は2点ありました。

先ず、第1点目は6日間滞在した天津で果たすことになりました。
それは、株式市場でかつては不足する外貨資金獲得という市場の目的が役割を終え、参加者と取引金額が中国株式市場全体の数%程度と資金調達市場としての機能が低く、新規のIPOもなく、維持していくのにコストに見合わず、いまやお荷物と成り果てた上海B株と深圳B株の処分問題に対する私なりの回答を出すことでした。

私は、上海B株と深圳B株については、大半を中国の銀行の外貨口座(美元=米ドルと港币=香港ドル)から証券口座に振り替えて直接運用しています。
今まで深圳B株の中集Bや万科B株などは香港H株への転換、上海B株の東電B株はA株へ変換の道筋が示されていますが、本土股民(一般投資家)は基本的に買取り価格での処分か転換期日前売却に迫られているようです。最後の取引が活発化している今の時期ですべての株の処分を決断しました。上海B株は持ち株の上海机電と鄂尓多斯と伊泰コールを、深圳B株では持ち株の万科と江鈴汽車、杭州汽輪、張裕葡萄酒を売り3日後に人民元に両替して、A株購入に充てることにしました。A株では株価の低迷する持ち株(金融街、中信証券、用友軟件、航天信息、海油工程、張裕葡萄など)と新規の株(双汇発展、七匹狼、信立泰、洋河酒業など)を中心に購入しました。すでに高くなりつつある銘柄もありますが、消費関連を中心に株価が相対的に低迷する今が買い時との判断です。

A株については、私はここ1-2年は強気の予想を立てています。

その理由はいくつかあります。
まず、不動産への投機熱に強烈な冷水が浴びせられつつあることです。私の中国滞在中にも、2軒目以降の個人の不動産購入に不動産課税の強化策が発表され、融資の限度額も厳しく制限されることになりました。また、所有・売却時の税制にも変更が見られます。こうした政策変更に一般庶民も大きく反応を示しています。

国務院(内閣に相当)は3月1日、住宅取引の規制強化策を公表しました。
住宅価格が急速に上昇している都市を対象に、個人が2軒目の住宅を購入する場合の住宅ローン頭金比率(70%以上を設定予定)と金利を引き上げるよう指示したというニュースが流れ、さらに税制面では、個人が住宅を売却した際の所得に対し20%課税する規定を厳格に適用すること、また、上海市と重慶市で試行している不動産税(固定資産税に相当)については、適用地域を拡大する方針が明示されました。早速、南京など各都市で住民側の慌ただしい動きが報道されていました。
まず、売り買いが交錯し、期限内の駆け込み需要で房地産管理局への産権証(権利書)申請が殺到しています。2軒目の不動産所有に対する課税が強化されつつある都市では、偽装離婚が横行しているといいます。離婚証明を管轄する部署に庶民が殺到する様子も見られます。
こうした庶民の不動産熱が急速に冷まされ、余剰の資金が株式市場に向かうのではないかと予想されます。

また、3月5日には養老保険基金の資金を株式で運用する施策案が、全国人民代表大会と全国政治協商会議(両会)の期間中に提出される見通しだ、とも報道されています。
これにより、株式市場への資金流入期待が高まることは間違いないでしょう。養老年金の資金は数兆元が運用を全国社会保障基金理事会に委託しておもに株式などで運用されることになりそうです。
昨年5月に中国保険監督管理委員会(保監会)が保険会社の株や不動産に対する投資規制を緩和したのに続く株式投資への規制緩和の動きです。
昨年10月にも中国証券監督管理委員会(CSRC)は、公的住宅積立金をA株市場に投資する方法の検討を開始したとの発表がありました。
これまでの中国の証券市場が抱える問題点の一つは、機関投資家の比率が他国の市場と比べて低いことだと指摘されていました。これまで、CSRCは長期資金の流入増加が機関投資家を本土市場にひきつけるカギになるとして、年金基金や住宅積立金の運用規制緩和の方針を明らかにして緩和を徐々に進めてきました。現在、年金基金については全国社会保障基金理事会を通じて株式を含む投資先を多様化する改革が進行していますが、住宅積立金の株式運用は研究段階にとどまっていました。2011年末時点で、全国の住宅積立金残高は2兆元を超え、なお増え続けています。しかし、一方で、国務院の規定に従い、運用手段は個人住宅ローンや国債、銀行預金に限定されているため、十分な運用益を得られていなかったといいます。また、同様に、すでに3兆元超の受託資金を実際に運用している社会保障基金の投資収益も運用は銀行預金が主体のため、年平均利回りは2%にも満たず、低迷しているといいます。

さらに、3月6日には中国証券監督管理委員会(CSRC)が、香港の機関投資家に人民元建てのA株投資を認めるRQFII(人民元適格海外機関投資家)制度の法規改定と実施規定を公表しました。本土系以外の機関投資家(香港の証券当局から認可を得て資産管理業務を手がけていることが条件にはなるが、本土の銀行および保険会社の香港子会社と、香港に登記して実際に営業している金融機関も資格申請が可能になるという)にRQFII資格申請を認めるほか、A株など証券取引所で取り扱う証券が幅広く追加されて投資範囲の規制を大幅に緩和するといいます。
RQFII制度は香港域内に蓄積された人民元を本土に還流するメカニズム構築に向けた措置の一つですが、2011年12月にモデル実施がスタートし、投資枠は今年に入り200億元から700億元、さらに2700億元に拡大していました。
これに先立つ昨年4月始めには、中国証券監督管理委員会(CSRC)はQFIIの投資上限枠を現行の300億米ドルから500億米ドル引き上げ、合計800億米ドルにすると発表していました。 QFIIとは(Qualified Foreign Institutional Investors)の略称で、条件付きでA株の取り扱いや売買を認められた海外機関投資家のことです。国家外貨管理局は昨年9月末時点で、157社に対し合計308億1800万米ドルの投資枠を付与したことになり、投資枠付与総額は300億米ドルの大台を突破しています。

CSRCは、資本市場の対外開放と人民元の国際化を進めるため、引き続きQFIIとRQFIIの規模を拡大して海外の長期資金の流入を促す方針を示しています。

A株投資について3月10日には、CSRCのの郭樹清・主席から、注目の発言があった模様です。
まず、香港の機関投資家に人民元建てのA株投資を認めるRQFII制度の投資枠を今後、拡大していく考えが示されました。また、本土在住の香港・マカオ・台湾居住者によるA株投資に限度枠を設けず、本土居住の投資家と同じ権利を与えると表明した模様です。『証券時報』が11日に詳細を伝えています。
 RQFII制度による投資枠は昨年拡大するとの方針が示され、今年に入り700億元から2700億元に拡大されていましたが、郭主席は、昨年追加した2000億元について市場から良好な反応が得られれば、さらに投資枠を追加すると述べています。

 また、一方CSRCは、香港・マカオ・台湾居住者がA株口座開設することを認める規則改定を4月1日付で施行すると発表しました。口座開設希望者は本土への通行証と身分証、公安当局が発給した臨時居住地登記証明の提出を義務付けられるようです。

そして、3月7日には中国証券監督管理委員会(CSRC)の姚剛・副主席が、現在実質的に停止状態にある本土市場での新規株式公開(IPO)が4月以降に再開する見通しを明らかにしました。しかし、事実上の再開は手続きが進む6月以降となる模様です。ずれ込めば、秋以降ということになる可能性もあります。
本土市場での新規株式公開(IPO)は昨年10月より実質的に停止されている状態が続いています。IPOでは当初の評価額が高すぎて、上場後に株価が下落するケースが目立ち、また上場後に業績が悪化する企業が後を絶たず、投資家の不信を招いていることを受けて、IPO審査を厳格化する一方、IPO規則の改定作業を進めるとして停止されていたのでした。今年1月時点で、IPO審査待ちの企業は900社近くに達し、認可取得の見通しが立たない一部企業はIPOを断念したとの報道もありました。

中国株はここ3、4年ブームから見放され、下落と低迷を繰り返してきました。やっと昨年10月以降株価は底を打ち、企業業績はまだまだパッとしませんが、一部では電力エネルギー業界など好転を見込まれる業界も出てきています。
そろそろ次の投資先として狙いを定める動きが「大きな勢い」に繋がるのではないかと考えています。

単純にですが、A株市場の需給関係で考えれば、新規IPOの停止は供給側を抑える効果となります。一方、株式市場に投ぜられる資金等の需要サイドの資金は確実に膨らむ方向です。
不動産投資の行き場をなくした中国内の遊資や市場参入を狙う機関投資家の資金は膨大な資金ですが、その需要を満たすはずの市場の商品数量共に制限があるわけですから、確実な市場価値の上昇が見込まれます。

中国A株市場は海外の一般投資家に完全解放された市場性を現在のところ持ち合わせていません。いわば「箱庭」のように囲いに仕切られたクローズドマーケットの面白みは、実はここにこそあります。

中国の金融当局の目下の眼目は【市場をコントロールして安定成長をはかる】ことです。
中国は、日本のバブル崩壊やアジア通貨危機を見て、そうした現実がトラウマとなっている可能性すらあります。国の財政をも脅かしかねないほどの膨らんだならず者の遊資やその不届きな亡霊を恐れています。
それはA株市場の大株主が中国政府自身であり、株が暴落して一番損をするのは国や官僚であったりすることが自明だからです。ですから、市場の完全開放を急がず慎重に進めているのです。これは、中国の通貨・人民元についても同様です。政府が出来るだけコントロールして、力を蓄え、有利な展開が予想できる状態までは手綱を放す気がないのです。
中国金融当局は、決してすべてを市場に任せるような放任主義は採りません。出来うる限り、介入の手段がある限りは、日本政府のように市場不介入を決め込み国富の減少をみすごすようなことはしません。欧米諸国が何と言おうと、あくまでも【市場をコントロールして安定成長をはかる】政策を手放すことはありません。過去の日本の轍を踏むことはないようにです。

中国の股民になりうる一般投資家の目先の投機対象は猫の目のようにクルクル変わりますが、不動産の次が株式であったとしても不思議ではありません。また、海外の投資家はどんな害毒を市場に持ち込むかも知れません。香港市場の中国関連株の存在価値とはわけが違うのです。
当面は、QFII制度の投資枠の拡大で海外の著名機関投資家の集める資金を呼び込む程度でお茶を濁すはずです。そして、市場価値を高めつつ香港の投資家、台湾からの投資家を取り込んでいく方向です。
要は、中国政府は自らの大株主としての価値ある財産が賭場のような投機の場にさらされ、オモチャにされることを望んではいません。ですから、いまだに時間をワザと遅らせるような高く厚い障壁を設けて守ろうとしている、ともいえるわけです。

「宝の山には怖い虎もすみます」が、なんとかその「虎」を避けて山に近づき、安全に分け入ることができれば「宝」はあなたのモノとなります。

第2点目は、北京に滞在した3日間で再会した人達にあります。
しかし、この話は少々長くなるので、次回以降に回したいと思います。
2013.03.12

 

2013/07/30