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中国名言と株式紀行(小林 章)

第127回 中国・天津より/中国株日記 (62)

【NO.65】中国、天津より(3)
日本の「アベノミクス」と呼ばれる政策の発動は、【インフレ政策】と【円安誘導】を柱としつつ大型で広汎な【増税】路線であることは明かです。
その行き着く先には、誰もはっきりとは言いませんが、あきらかに「円資産の暴落」という事態が待っています。
すなわち【日本で円ベースで資産を持っていること自体がリスクである】ということです。

私たちの取りうる基本的なリスク・ヘッジの方策はただ一つ、資産を円通貨以外の成長国の強い通貨に資産を分散させておくことです。
個人資産を日本円による預金や債券等に集中しておくこと自体が最大のリスクとなりうるのです。国内の不動産ですら、インフレに強いといわれるのは成長期の経済事情のもとでのことです。土地の価値が需要の減衰により暴落し、流動性に不安があるようになれば、換金性に乏しい、かえって動かすことのできない「重いお荷物」ともなりかねません。

こういった話題が前回までのまとめです。

そうはいっても、日本への愛着は捨てがたく、安住願望も断ちがたいものです。
「内向きの日本」や「日本の金融慣習の鎖国性」にこそ問題があります。
そこで考えられるのは、収益事業の中心を成長するアジア地域に置き、事業の拠点を有利な立地の国や地域に築くことです。そして気楽な旅遊者気分で日本に戻ってくればよいのです。

私のお薦めは、今流行の「アベノミクス」で一時的に価値の上向いた円資産の1/3から半分程度を良き頃合いを見て処分し、円通貨以外の成長国の強い通貨に資産を分散し、積極的にリスクの分散に着手しておくことです。まず安心を担保しておいてから、次々に有利な投資に打って出ればよいのです。
中国では「走出去」と言いますが、ひと頃盛んにこの言葉が使われて、個人が外国に出ていって稼ぐ、中国企業が海外に進出することをこう言いました。

日本人のように資金や高い技術と知識(アイデアと戦略・戦術)を持って「走出去」すれば、白手(何も持たずに)で飛び出すことを得意とした華僑を始めとする中国人とは違ったことができるはずです。

かつては一握りの権力者が資本と情報を支配していましたが、産業革命・技術革新により工業化の進んだ近代以降は資本を握る企業家や資産家が権力と結びつき情報を独占し動かしてきました。これからの時代は優位な情報源を得る立場の者が、巨大資本と結びつき新たに生み出される富を独占し、権力をも動かす力を持ちうるのだと推測されます。

この優位な情報を取りに行くには、端末の前にいくら座っていてもダメで、自分から行動を起こし沸騰する現場を体感する必要があります。ネットの情報は既に使い古された情報か、せいぜいヒントにしかならないでしょう。

ここに、誰でもできる手軽な他外貨への分散投資の一つの事例を示します。

たとえば、すでに気付いておられる方もおられるかも知れませんが、中国の銀行が発行する銀聯カードをうまく活用する方法です。

いまや銀聯カードは、かつての中国人旅行者がこぞって日本の家電製品などを買いあさった際に手に持っていた中国の銀行が発行するデビット機能(決済後すぐに銀行の口座から代金が引き落とされる)付きのキャッシュカードのことです。中国国内では13億枚以上が発行されており、中国全国75万店以上が加盟し、代金決済は中国内180行をネットワーク化している中国人民銀行の子会社である中国銀聯が2002年より運営しており、中国国内では最も普及している決済手段となっています。
日本での銀聯カードの代理業務は三井住友カードが請け負っており、2007年12月より日本人向けにも発行されていますが、日本で発行される銀聯提携カードは1回払いのクレジット機能のみのカードとなっており、キャッシングもデビット機能も使えません。
しかし、中国銀行東京支店では2009年11月より中国国内と同じ機能の銀聯カードの発行を開始しているようです。
日本でも人民元で預金残額があれば、自動的にその日のレートで日本円に換算して大手デパートや有名ショッピングモールでのお買い物に使用でき、一部の大手銀行(三井住友銀行など)や郵貯、セブン銀行のATMでも日本円で残高が表示され、その範囲内であれば現金を引き出すことができます。

銀聯カードは中国銀行東京支店でも発行しているようですが、やはり手近には中国旅行の際にでも中国建設銀行や中国工商銀行、中国銀行、交通銀行、招商銀行などの支店で作っておくべきでしょう。
銀行によって申請の仕方や申請の際の書類種別や記述に違いが若干あります。
銀行窓口では、パスポートの提示が必要で、普通預金(活期)だけなら、口座開設申込書類に必要事項を記入して、手持ちの人民元をそえて申込みをします。中国国内の住所と連絡先(電話番号、携帯番号でも可)は必須ですので、事前に準備しておきましょう。別に後から追跡調査が実施され、記述不誠実の場合にはカード強制取消などということはないようですが、デタラメでは都合が悪いように思いますので、ある程度信頼のおける記述ができるように準備しておく方が安心できるでしょう。どうしても中国人の知り合いがいないようであれば、宿泊先ホテルの住所(ホテル名は無記入)と代表電話にしておいても良いと思います。暗証番号のPINコード(6桁)も任意に設定する必要があります。

[大体の口座開設手順]
「中国银行个人结算账户户/借记卡业务登记表」(普通口座の開設とカード発行)と書かれた書類に必要事項記入する。
*記入項目*
姓名・・・名前(簡体字、漢字名)
性别・・・「男または女の性別」を記入
国籍・・・「日本(JAPAN)」を記入
证件类型・・・パスポートなら「护照」と記入またはチェック
证件号码・・・パスポートならパスポート番号を記入
联系电话・・・滞在先の電話番号(ホテルの電話番号で問題なし)
手机・・・携帯電話の電話番号(無ければ記入しなくても問題なし)
住址・・・滞在先の住所を記入(ホテルの住所など)
邮政编码・・・滞在先の郵便番号を記入
申请人签字・・・2箇所に署名(サイン)を記入
领卡人签字・・・署名(サイン)を記入

*チェックを記入する項目*
新开借记卡・・・新規口座開設(カードと通帳の作成)
电话银行・・・テレホンバンキング
网上银行・・・ネットバンキング

普通預金(活期)と定期預金(定期)の口座は通常別になっていますから、定期預金を目的とする場合は両方を同時に開設するようにしておきましょう。でないと、普通預金の口座だけ開設されてネットバンキングで定期預金ができません。
通常30分程度で銀聯カードをその場で発行して手渡してくれます。日本でのようにカードは1週間後に別送などということはありません。

さて、銀聯カードができたら、次はこのカードをフル活用する番です。
いまの日本では、銀行預金で資産運用などと言うと苦笑されるのが落ちでしょうが、人民元での預金に切り替えるとまったく違った環境が用意されています。
例えば、こんなこと可能となります。
この中国の銀行に日本円100万円分を人民元に両替して定期預金にしておきます。現在の中国銀行人民元預金の利率は2年もの定期では年利3.75%となっています。
預金利子に対する課税が5%ですから、毎年末には約3.56万円の利息が付くことになります。これを数度に分けて1千万円分の人民元定期ができれば、毎年末には約35.6万円の利息が付き、5千万円分の定期では約178万円の利息を手にすることが可能となります。さらに、中国銀行人民元預金の5年もの定期では年利4.75%にもなります。
日本の都市銀行での同様の定期預金利息は0.4%程度ですので、比較の意味もないでしょう。ちなみに、口座開設以外の入金は日本の中国銀行の支店を利用したり、シティバンクから送金したり、ネットバンク上で普通預金と定期預金を切り替えたりできます。
178万円の利息は大したことはないかも知れませんが、月額に均(なら)せば約14万8千円で、年金程度の受取額になります。この利息を原資に銀聯カード1枚で日々の消費生活に使えば便利です。こうした、ただ単なる日本円定期預金を人民元定期預金に切り替えるだけの運用変更も安定利回りを確実に確保できる分散投資の活用例となります。

中国人ならば、娘を日本に留学にやり、まとまった入学金や月謝は直接送金で賄うとしても、中国内の銀行での定期預金の利子で、娘の日々の生活費は銀聯カード1枚渡して月々14.8万円程度で家賃や食費などのやり繰りをさせるなどということが可能となってしまうのです。日本人も彼らの「ソツの無さ」を少しは見習わなければならないでしょう。

いま取り上げている中国の「人民元」は、成長国の通貨の代表選手です。
05年7月に人民元の2.1%の切り上げが中国政府によって実施されましたが、ここ7年間あまりで、実に約24%も、人民元は米ドルに対して切り上がったことになります。
同じことが何れ対日本円に対しても早晩起こりえます。
円高の今だからこそ、当面強くなる一方の外貨に鞍替えしておくべきチャンスなのです。

また、中国のような成長国では、株や不動産、さらに事業に対する融資や投機等へのお金の流れを抑えるためにどうしても金融機関の貸出金利を上げざるを得ません。それに伴って当然、預金利息率も上昇していきます。

成長国の通貨は所有しているだけでもメリットは大きいのです。さらに、これに、有利な株や債券、不動産等の運用が加われば、やり方によっては何十倍にも報いられることになります。

こうして円以外の通貨での分散投資に馴染みながら、もっと有利な投資運用に幅を拡げて応用していけばよいのではないでしょうか。
2013.02.20

注)この記事は、過去のものからの再録の形で転載させていただいております。時事的に古い話題が取り上げられていますが、内容的には時間の風雪にも耐えられるものと思い、取り上げさせていただいております 。 

2013/07/09