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中国名言と株式紀行(小林 章)

第119回 中国・天津から/中国株日記 (58)

【NO.59】中国、天津から(22)
このところの人民元の対ドルに対する為替交換率はじりじりと急角度で急降下しており、9月21日の中国人民銀行(中央銀行)の発表した人民元の基準値は1米ドル=6.3426元で、2005年7月21日の人民元の2.1%の切り上げ以降、人民元の上昇率は20.9986%に達しています。

これまで、人民元と米ドルレートは1米ドル=8.27-8.28元で長く固定(ペッグ)されていましたが、05年7月に人民元の2.1%の切り上げが実施されますと、米ドルペッグ制を複数の通貨バスケット管理制(管理変動制)に移行させ、人民元はじりじりと切り上がっていきました。
さらに、中国人民銀行(中央銀行)が2010年6月に相場の柔軟性を高めると発表してからの上昇率は7.6451%と加速しています(2008年から2010年までは1米ドル=6.82元にほぼ固定された時期もあった)。
ここ7年間あまりで、実に約24%も、人民元は米ドルに対して切り上がったことになります。

一方、人民元に対して日本円は9月29日現在、1元=12.40円(1円=0.08064元)となっています。
2005年7月頃には1元=13.60円(1円=0.07353元)でしたが、その時点から計算しても、上昇率は9.67%となっており、人民元に対する米ドルほどのインパクトはありません。

これは、ここ7年間で、人民元は、日本円に対しては1元=13.60円から12.40円へと約8.82%程度切り下がったのに対して、米ドルに対しては1元=0.1208米ドルから0.1591米ドルへと約31.71%も切り上がったことを意味します。
すなわち、円の独歩高の影響は顕著で、日本円は人民元に対して約9.67%の値上がり、米ドルに対しては、なんと約44.08%程度値上がりしたことになります。

仮に、7年前の人民元改革直前の7月20日に100万円の日本円を人民元と米ドルに交換しておくと、
 100万円×0.07353元(1元=13.6円)     =73,530元
  100万円×0.008884米ドル(1ドル=122.1円)=8,884米ドル

直近の9月29日に100万円の日本円を人民元と米ドルに交換すると、
 100万円×0.08064元(1元=12.4円)    =80,640元
  100万円×0.0128米ドル(1ドル=77.92円) =12,800米ドル

日本円は、7年前に比べ、人民元に対して約9.67%、米ドルに対して約44.08%値を上げています。
また、7年前に100万円を人民元に両替して保持し、直近の9月29日にそれぞれ日本円と米ドルに両替してみると、
 73,530元×(1元=12.4円)   =911,830円(-8.82%)
  73,530元×(1元=0.1591ドル)=11,698米ドル(31.67%)

いろいろなケースを想定して計算してみると、やはり、この7年間では、日本円で保有し続けておいた人が米ドルに対して44%以上の為替差益を生み、賢明であったことが解ります。
そして、次の人が、日本円を一旦人民元に両替して保持していた人で、直近の米ドルに対して31.67%の為替差益を得ています。すなわち、米ドル安を上手くヘッジ出来ています。

結果、米国ドルが人民元に対して約24%も切り下がっても、円の独歩高では、日本人には人民元の切り上げ効果は相殺されるどころか、ほぼ意味がない段階にあったといえます。
円高の原因には、国際市場が円も人民元も同じアジア通貨だと見なされて、円を人民元にリンクさせて売買が行われた免もあります。2005年7月の人民元の2.1%の切り上げ時には円もつれて上がってしまったことからもそのことが伺えます。

まあ、しかし、ここは考えようで、米国のリーマン・ショックやユーロ危機などによる外貨の日本円への一時的逃避の意味合いが強く、円高はいつまでも継続するわけではないことは明かですから、いずれ修正されて円安に向かう時期が来るでしょうし、その時は人民元の強さを改めて実感できるわけです。

いずれにしても「経済成長率の高い国ほど為替レートが強くなる」とは、経済学の常識で、これをバラッサ=サミュエルソン効果と言います。

また、さらに、幸い日本円の強いこの時期に人民元建て資産に集中的に、大きく投資しておけば、今後長期に渡る人民元高を充分に享受できて、そのメリットは計り知れないほど大きいものとなるはずです。

人民元による資産運用の方法は、直接投資から間接的なものまで様々ありますが、一般のひとは、いきなり現地での不動産投機や事業開拓に走らず、まずは、余裕の資金を高確定利回りの望める人民元口座に投じたり、優良中国株に投資することから始めてみた方が良いでしょう。

ここを、大きな千載一遇の投資チャンスと捉えるか、黙して看過するかは、人それぞれの判断ですが、国や人に頼らず、どう将来のための安定した自身の生活のための原資を得るかということを考えるにあたって、無知であってはならないと私なら考えます。

現在のグローバル化の急進展した時代には、お金の動きによく注意を凝らして、この時代に合致した投資と資産運用の形が標榜されてしかるべきです。
何故なら「お金は人々の知恵が結集して動くものですから、お金の儲かるところに動こうとするし、カントリー・リスクの大きいところは避けて通ろうとする」(邱永漢)という性格があるからです。

いつまでも、ひとつ覚えのように日本国内に止まって、郷土を愛で自給自足や流行の「地産地消」経済圏内の自己満足に浸っていては、ゆでガエルの例にもあるとおり漫然と自己資産の目減りに自縄自縛式に苦しむことになるのではないでしょうか。

ここは、ひとつ大きな思案のしどころだと思うのです。

2012.09.29

注)この記事は、過去のものからの再録の形で転載させていただいております。時事的に古い話題が取り上げられていますが、内容的には時間の風雪にも耐えられるものと思い、取り上げさせていただいております 。 

2013/06/23