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中国名言と株式紀行(小林 章)

第107回 中国・天津から/中国株日記 (52)

【NO.53】中国、天津から(16)
株式投資について、最近少し考えたことがあります。

株式投資は、経済成長の鈍化した国の市場に固執していては、儲けるチャンスが少ない上に、逆に損をする確率がうんと高くなってしまいます。こうした不利な条件の多い市場は避けて通るぐらいでないと株式投資も上手く行かないものだということです。

仮に、株投資に成功して、一旦手にした利の乗った回収資金は、調子に乗って、銀行預金をするぐらいならと思って、ついジッとしておれずに、多少の期間は塩漬けにされても現金配当も少しは期待できるしと、また株の世界へ投資してしまいがちなところです。

この場合に、有利な再投資先ということを優先して考えるべきなのに、選択の余地は限られてしまう現状があります。
もう一度、日本のようなデフレ傾向の続く成熟化した市場にお金を投じてしまえば、景気はいずれ回復するだろうと期待していても、なかなか戻り足にならずじりじり沈んでいくような目に遭わされます。あげくは、思惑がはずれ失敗する確率もうんと高くなってしまうのは目に見えています。
特に著名ファンドの代表者の言う「超長期」の株式投資を考えている人は、景気の循環を期待して日本株だって「必ず将来上がる」と思って悠然と構えていろといわれても、それがいつになるのか、痺れを切らしかねないものです。

やはり、株式の長期投資においても、景気の循環を待つのではなく、成長の続く市場に乗り換えて投資を行うことの方が、メリットは大きいといえるのです。
「分け前の多い成長市場」にターゲットを絞って株式投資をしたほうが、短期に思いがけないリターンが期待できたりします。また、中長期投資という観点でも、多くの優良銘柄からの選択肢も広がりますし、思わぬ「分け前」の恩恵に長期に渡ってありつける可能性が大です。

ひとはどうしても、勝手を知った場所で勝負をやりたがるし、そこでの成功体験は常に頭の片隅ではなく、まん中にあって、拭いがたいものです。

では、こうした「勝手知った場所」と、頭のまん中を占める「成功体験」の問題があらためて課題となるでしょう

結論としては、ほかにも多くの「勝手知った場所」を増やす努力をすべきです。
また、頭のまん中にあって錆び付いた「成功体験」を頭の片隅に置き直して、頭のまん中のワーキングメモリー(作業記憶)領域を広汎に活性化させておくといった作業が要求されます。

成長市場は、中国に限りませんし、有望な株式市場はアジアの新興国にも誕生しつつあります。気の置けない投資先は、探せばたくさん存在しています。

最近、中国株に注目する人が増えましたし、実際に中国株投資を盛んに行う人も多くなりました。
ですから、中国株ももう「だいぶ知られたからには、儲けに預かるチャンスも少ないぞ」とか、まだ「あまり人に知られていない中国株の次を探すべきだ」という意見に、私も大体そうだと思います。ひととは移り気なモノです。
まあ、そこそこ中国株で儲けたひとは、あまり本音を言いたがらないものですし、一家言を得ても、他人の顔色を伺いながらしゃべり出すといったタイプのひとが殆どです。
それは、自分が有頂天になってしゃべったことが、空気が読めなかったばっかりに、周りの人に受け入れられないで、ひとり浮いてしまわないかと、心配になるからです。
しかし、少額の投資にもかかわらず、損でもしてしまったひとは黙ってはいません。

投資人物像の観察はそのぐらいにして、中国株のことですが、あれほど巨大な鯉が、所狭しと池の中で暴れ出したのです。その波紋だけでも大きくなり、池の他の生物に影響を与えないわけはありません。
中国B株や香港H株などは良く知られていても、また上海や深センのA株は手が出せないで諦められていたとしても、まだまだ中国市場(深セン)には未知数の2部市場や新興市場もあり毎年200社以上の上場企業が現に誕生しています。
こうしたマーケットの事情は、日本人などには意外に知られていません。

勿論、次のインドやベトナム、それに続くであろうカンボジアやミャンマーにも株式市場が誕生しつつあり、その動静は常に気になります。
しかし、巨大中国市場の中に潜む2部市場や新興市場の中にも、次の中国企業のスターになりうる上場企業が息を潜めている可能性があります。
こちらの企業群も、インドやベトナム市場の将来のスター企業に負けないほど有望だし、ひょっとすると将来の巨星企業を生む可能性も高いのです。

世界経済のグローバル化は、強国と新興国の間の争いを、武力による資源や人材や市場の争奪戦ではなく、お金による争奪戦に変えました。新興国でも、経済力を付けることで自国内市場や資源開発を可能にし、工業化による付加価値の創造に着手できるのです。
また、ある程度の経済力がつけば、かつての日本のように、経済発展に不足する資源でも高度技術でも、お金で手に入れることもできます。

そして条件さえそろえば、いずれ強国をも脅かす経済の覇者になることも可能なことは、日本もドイツも第二次大戦の敗戦後に実証し、そして中国やその後に続く新興国が次の富国の道を駆け上がろうとしています。

これからの富国の道は、経済をはじめとするグローバル化の道でもあります。
中国A株市場も、先頃までは世界の経済の衝撃によく耐えて、経済のシンクロ現象とは無縁の動きも多かったのですが、リーマンショック以降は完全に市場は同調するようになってきました。これもまた、中国経済がひとり独歩の歩みを続けることのできない段階にまで世界の経済活動に組み込まれてきている証拠であると見ることができます。

中国の国内専門市場であるA株も、いずれは国際化と無縁ではいられないはずです。
いつになるかは分かりませんが、B株市場と統合されて対外開放と国際化をはたす時期は意外に近いように感じます。

とすると、条件さえそろえば、中国内で新星から覇者に育つ可能性のある新興企業の中から、世界の覇者へと踊り出す創造的企業が現れるのも、それほど遠くないように思われます。

これが、私がまだまだ中国株に可能性を感じるひとつの理由です。

中国株のほかにも、アジアの「分け前の多い成長市場」を自らの庭=「勝手知った場所」とし、次から次に刈り取った果実の再投資の場に変えることができれば、切れ間のない投資循環のなかで、降雪地を跨ぎながら、お金も雪だるま式に回すことができるのではないでしょうか。

たとえば、中国市場で投じられた資金が、市場の好転で上向きの動意を表現している時に、投資資金の半数を手仕舞って、次の脈動を開始しようとするアジアの新興市場にタイミングよく再投資し、一部は別の新興市場の有望不動産へ投じる、といったチャンスに応じた投資の循環が描ければ、自分の庭=「勝手知った場所」は鮮やかでとりどりの花で埋め尽くされるだろうに、と思うのです。

これは、ひょっとすると、私の暑い真夏の夜の大妄想でしょうか。

2012.08.01

注)この記事は、過去のものからの再録の形で転載させていただいております。時事的に古い話題が取り上げられていますが、内容的には時間の風雪にも耐えられるものと思い、取り上げさせていただいております 。 

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