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中国名言と株式紀行(小林 章)

第95回 中国・天津から/中国株日記 (46)

【NO.47】中国、天津から(10)
今、私が読んでいる不動産関係の本によれば、「不動産価格決定理論」というものがあり、この理論によれば、「経済が成長しきると、不動産価格は右肩上がり一辺倒の相場は終わり、景気循環にあわせて不動産価格が動く相場に変化する」と書かれています。

株式相場もほぼ同じような傾向が見て取れますが、不動産の場合と大きく違う点があります。
それは、株式相場が経済の成長をしばしば先取りするような展開を演じるのに対して、不動産相場はそれにやや遅れて立ち上がってくるということでしょうか。

さらに、株式相場は、経済が成長段階にあっても、不動産の場合と違って「右肩上がり一辺倒の相場」にはなりません。

株式相場の株価をささえるのは企業収益状況ですから、景気が少し下降線に向かう気配が見えるとガタガタと崩れ出すこともありますが、景気の好転を先読みして総じて値を上げる場面もあります。

こうした株式事情を「歴史は繰り返す」というサイクル理論と呼ばれることがあります。W.D.ギャンという米国人が1923年に『株価の真実』という本の中で発表しています。
「株式市場は景気の正確なバロメーターである。株価は常に景気の6ヶ月や12ヶ月は先行するものである。まず、債券が上がり、次に株が上がる。その後で好景気がやってくる。下降局面でも同じことが起こる。株価はまだ好景気の時に6ヶ月か8ヶ月下げる。将来の景気後退を織り込むからである。」

日本の株式市場は、1960年代から1980年代の20数年にわたった経済の成長段階を脱して、成熟化を早足で迎えてしまいました。

しかし、一方の中国株式市場は、遅れてきた後発国の優位な立場と経済のグローバル化の恩恵を受けつつ、ようやく経済の成長軌道に併走して、荒っぽいが若々しい成長期に足をかけたばかりです。
中国産業界自体も、外資誘導型から生産性の自力向上型へ転換期にあり、まだまだ今後の長期に渡る経済の高い成長率が見込まれる初期段階にあり、政府による経済政策の変更や金融引き締めや輸出の不振など、一時的に業績の落ち込みや調整の波が来ても、好業績や高収益を維持している企業は多くあります。また、時には、企業内の規律やガバナンスの低さから起こる企業内の不祥事や係争事に見舞われる企業もありますが、企業業績には軽微な場合もあります。

中国経済は、これからも総じて「右肩上がり」に推移していくものと期待されますが、株式市場は直線的な上昇をたどるとも言い難い面があります。

中国の証券市場は、1990年12月と1991年7月に、上海と深セン証券取引所がそれぞれ設立されました。
これはちょうど、1970年代から始まった中国政府の国有企業改革の終着点の総仕上げが開始された時期にも重なります。つまり「国有経済の戦略的再編」の始まりの時期です。

まず、国有経済の範囲は、社会における公共財の提供など一部の業種に限定され、国有企業の多くは消費財や、公共やインフラ関連などを除くサービス業態等の競争的分野から撤退することとなりました。
そして、かつての国営企業は重点企業群のみ100-150程度の市場占有率の極めて高い独占的大型国有企業に合併・再編されていきました。そして多くの競争的分野の国営企業資産は分離・再編され民営化されたのです。
また、民営化を促進するために、規模は小さいが優良国有資産や有望事業を株式会社化した企業に分離・譲渡・独立させ、証券市場に上場させることにしたのです。

しかしながら、この上場を果たした時点でも、全企業の株式の7割が非流通の国有株になったままでした。
この間、分離独立され、上場をはたした企業の持ち株親会社(国有企業)による上場企業の間接支配や私物化、すなわちMBO(所有権の獲得目的とする経営者による自社株の購入)などによる国有財産の詐取疑惑や、増資を巡る財務操作や粉飾決算疑惑などが起こるべくして起き、新しく発足したばかりの株式市場の信頼度を大きく毀損する事態にもなりました。
これでは、いつまで経っても中国証券市場の健全な発展は望むべくもありません。

こうした事態を憂慮して、二度の失敗を経て、2005年4月に始まった非流通国有株のすべてを市場で流通させるための株式市場の「股権分置」改革は、こうした上場企業の経営上の企業ガバナンスの独立と中小投資家の権利尊重の目的で大胆に実施されたものでした。
そして、株式市場で売却された株式によって得られた資金は親会社の不良債権の処理や銀行融資の返済に充てられ、独立した上場企業側も晴れて独自の経営采配が振るえるようになりました。

この「股権分置」改革が起爆剤となり、中国株式市場は徐々に活況を取り戻し、上海総合指数が2007年10月16日の高値6124.04ポイントの市場最高値を付けるまで約2年弱、一本調子の高騰劇を生んだのです。
そして、ご存じの通り、その後は1年間にわたって株価は下げ続けます。この下げる過程では、リーマン・ショックが起きるまで、中国経済はマクロ、ミクロともに絶好調といってよい状況は続いていました。
しかし、8月の北京オリンピック開催を挟み、投資家心理は激しく落ち込み、指数は1年で約1/4まで下落してしまったのでした。

一方、株価低迷をよそに、今度は入れ替わるように、不動産ブームが沸き起こってきます。

株価を売り買いするのは人間である以上、市場の株価を動かすものは市場参加者の総体としての投資家心理と言えるでしょう。
ここまで低迷した株価と冷え込んだままの投資家心理を、次に好転させるための要因は何になるのでしょうか。

それは政府による、次なる決定的な株式市場テコ入れ策の策定・実施でしょうか。
または、経済の高成長持続を担保する適切なる景気刺激策の決定・実施でしょうか。

経済の高成長過程に移行した後進国では、社会全体の富は増える方向にありますから、それに従って消費も増え、それが企業業績に好影響を与えていきます。
ですから、どうしても、必然的に内需の高まりに期待が移ります。

すると、株式市場好転の鍵は、政府の強く推し進める内需主導型経済への転換が確証を得る段階に達した時になるのでしょうか。

2011/06/06

注)この記事は、過去のものからの再録の形で転載させていただいております。時事的に古い話題が取り上げられていますが、内容的には時間の風雪にも耐えられるものと思い、取り上げさせていただいております。
 

2013/05/06