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中国名言と株式紀行(小林 章)

第91回 中国・天津から/中国株日記 (44)

【NO.45】中国、天津から(8)
深セン株式市場の創業板(新興市場にあたる)に「同花順(300033)」という民営企業が上場しています。
企業の正式名称は「浙江核新同花顺网络信息股份有限公司」といい、業務内容は「为国内资本市场提供金融资讯、数据分析和软件系统服务。」(中国内株式市場のマーケティング業務及び市場分析とソフトウエア提供業務)となっています。
企業のURLは、 http://www.10jqka.com.cn/ です。(※リンク先不明のため、リンク情報は削除いたしました。2016.08.11)

この企業の市場分析力やインターネットによる株式取引システムには定評があり、基本のシステムは無償で提供されています。
このサイトに年末に出た記事があり、題名は「この10年で最も優良なパフォーマンスを演じた厳選30の株」と銘打って、優良株式の長期投資が如何に有利だったかを検証するものでした。

内容をかいつまんでみると、2001年よりの10年間で上海・深センの中国本土市場(A株)に上場する1072銘柄の株のうち744銘柄(69.4%)の株価が上昇しており、残りの30.6%の銘柄の株価が下落しているということでした。
その中で10年で株価が約25倍とトップを記録したのが白酒(国酒)メーカーの贵州茅台酒(600519)でした。

以下、張裕葡萄酒(000869)が、16.72倍、白酒メーカーの泸州老窖(000568)が15.19倍、建築重機メーカーの中联重科(000157)が13.49倍、食肉加工の双汇发展(000895)が13.32倍、エアコン家電メーカーの格力电器(000651)が13.05倍、レアメタル採掘の包钢稀土(600111)が11.42倍、医薬の恒瑞医薬(600276)が11.13倍、雲南白药(000538)が10.67倍、白酒メーカーの山西汾酒(600809)が10.65倍と9企業が10倍以上の株価の上昇を実現しました。

また、バス車体製造の宇通客車(600066)が9.62倍、採炭業の西山煤电(000983)が9.01倍、白物家電メーカーの美的电器(000527)が8.69倍、採炭業の兰花科创(600123)が8.65倍、化肥製造の盐湖股份(000792)が8.11倍、漢方薬の东阿阿胶(000423)が8.05倍、白酒メーカーの五粮液(000858)が7.27倍といった具合でした。

ざっと見てみると、酒造メーカーや食品加工、家電、重機、資源採掘業、医薬メーカーの各分野の健闘が顕著です。ここからも中国人の嗜好やマーケットの特性が垣間見れるのではないでしょうか。日本の株式市場と比較しても、経済成長分野にはない企業業態名があるのが少し奇異に感じられるでしょうか。

ちなみに、私事で恐縮ですが、上記に名前の上がる銘柄のうち4社の株を少量ですが保有済みでした。

中国人の株投資家の一般的傾向として、上昇の目立つ株に便乗しやすい、サヤ取りに走る傾向が顕著である、インサイダー情報に寛容であり、逆にインサイダー情報によって株価は左右されていると信じる一般投資家(股民)も多いのです。

しかし、数年前より、株式市場の下落傾向を受けて、運用成績を伸ばせない投資信托(基金)が下火になり、入れ替わるように、株式市場での運用リスクが低下しつつあるとみて、国営企業の年金基金が運用枠を積み増し、今まで国債や限られた社債など確定型投資運用に限定されてきた金融機関や保険機関が預托資産の株式での運用枠を政府から認められ、というように、新たな機関投資家や投資目的で優良企業の大股東(株主)にのし上がる上場企業なども出現しています。

中国における株式市場が、かつてのような一般投資家(股民)が多数を占め、賭博的要素が重んじられ、ギャンブル場化していた時代は徐々に過ぎ去ろうとしています。

中国の知人の多くは、短期での株価の上がり下がりばかり気にしていますし、その差益が見込めればすぐに売って利益確定してしまいます。
そもそも股民は上場企業を信用していません。いつ倒産しても不思議はないと思っているので、株の差益が発生すると、その企業とあっさり手を切ろうとするかのように、株売却に走るのが常です。
上場企業研究や業績分析レポートの類がネットでも閲覧可能ですが、股民はあまり関心がないようです。
せいぜい直近の株価チャートの上昇具合を見て、もっと上昇が見込めそうであれば、その上り竜の尻尾にでも載っかりたいと思っているのです。
株価ケイ線分析して、この株は上がると言っているような人は多少ましな股民です。

また、どこから聞いてきたのか、内緒の話として「○○企業は、△△の販売が好調で、近々好業績顕著につき株価高騰間違いなし」と太鼓判でも押されたように打ち明けられることもありますが、大抵はガセの内部情報であったり、大概周知の事実だったりで、既に株価はじりじり上昇から膠着への微妙な時期だったりします。そこでもう一段の上昇が見込めれば、即売却となりますが、得てして株価はそういう時は一旦下げてしまい、股民は臍(ほぞ)を噛む思いで、悔しがることになってしまいます。

上海、深せんA株には、総じて株の人気投票の嫌いがあり、傾向として株価は高めで推移しており、たとえば香港H株に同時上場する銘柄に比べても高くなっているのを見ても、そのことは理解されます。
従って、株価に比べて株主への利息の配当率も総じて低めです。銀行の定期預金程度の利率だと思えばよいでしょうか。
ですから、股民はあまり配当額を考慮せず、キャピタルゲインにばかり目がいくのでしょう。

天津では、失業中の息子に、親や親戚がお金を援助して、株をやらせるという話をよく聞きます。
株の短期売買の鞘取りで日銭を稼がせようという、親の配慮でしょうが、才覚に欠け職能に問題ある息子に株で恙(つつが)なく稼ぐ能力を期待できるものでしょうか。素直に就職活動をさせたほうが本人の身のためだと思うのですが。

中国では、株式市場はまだまだ成熟化しておらず、何があっても驚くに当たらない段階でもあるのです。

2011/02/05

注)この記事は、過去のものからの再録の形で転載させていただいております。時事的に古い話題が取り上げられていますが、内容的には時間の風雪にも耐えられるものと思い、取り上げさせていただいております。

2013/04/28