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中国名言と株式紀行(小林 章)

第85回 中国・天津から/中国株日記 (41)

【NO.42】中国、天津から(5)
中国各都市における不動産投資熱は、まだまだ熱いものがあり、経済の成長余地に応じて、この先の盛り上がりもありそうです。中国における産業や所得の伸びが継続して拡大する限り、今後も住宅や不動産に対する実需も拡大していくのです。

その理由は、前回までに述べてきたように、経済発展に見合う住宅・不動産の実需に裏打ちされて、右肩上がりに価格が伸びてきているという事情(経験則)がありますし、中国人の住宅・不動産に対する特別な思いが裏の事情としてあります。

ただ、中国での住宅・不動産とは、個人所有(私有)が認められていない国有、ないしは農村部のような集団所有となっているために、所有権ではなくその土地の賃借権(使用権)のみが売買の対象となっているので、日本をはじめとする欧米諸国でみられる不動産価値とは明らかに異なる状況が存在しています。

しかも、その住宅・不動産の価値は、単に土地の貸借権(使用権)と建物の価値であるため、不動産の価値は建物の商品的価値の要素が強いと指摘しました。
個人向けマンションが「商品房」と言われるように、中国では集合住宅がまるで工業商品であるかのように、次々に生産され続けています。

今まで、住宅の開発・販売業者は地方政府や国から土地の開発権を入札等で得て、使用権の払い下げを一定期間(70年間とか)に使用用途目的(住宅地や商業地など)を限定されて得てから、建物を建て住宅や商業用テナントとして販売してきました。

開発・販売業者は、土地の開発・使用権を安く落札し、そこそこの建物(箱)を建設するため、その業者の販売後の利益率は30%を越えていると言います。
こうした開発ディベロッパーは、開発を急ぐ政府の意向を受け、政府との強い人間関係と政府系金融機関との連携で、大型の不動産開発を手がければ、比較的短期で大きな利益を手にすることが出来たのです。

万科企業や保利地産、金地集団などは、早くからこうした都市開発の勢いに乗って、各地で大型開発を手がけ大企業にのし上がっていきました。

こうした企業が、地方政府と手を組み市街地の大型開発計画を行えば、地方政府がインフラ整備から住民移転や資金等あらゆる面でバックアップし、事を進めてゆくモデル体制が出来上がりました。
そこに利権を持つ地方政府高官と開発業者との贈収賄等での癒着や汚職も定常化していく素地があります。

現在、ここ天津に限らず、北京や上海、広州、シンセン等の大都市では、比較的高級な住宅や不動産物件は、需要と供給との関係からすれば、徐々に供給過多の方向に向かう傾向が顕著になるでしょう。
また地方の中堅都市では、まだまだ高級物件は伸びる傾向にあります。

今の大都市にみられる不動産投資は、居住目的というよりもマンションを投資・投機目的で購入するという傾向が顕著になってきています。
従って、投資用としての高級物件に購買層の人気が集中しているようです。

不動産は、今までインフレにも強く、最近の価格上昇局面では銀行預金や株式投資よりも高いリターンが得られるということで、庶民をも巻き込んだ投資の定番アイテムとなっていったのです。

はからずも数年前にマンションを購入した人たちは、皆一様に良い思いをしており「どうしてあの時点で2軒目のマンションを無理してでも購入しなかったのか」と悔やむ人に、ほんとうによく出くわします。
こうした庶民レベルでの成功体験が、今の中国の不動産ブームを定番の投資人気に押し上げているのです。

中国では、固定資産税や都市計画税といった土地の私有を前提にした税制がありません。
また、相続税や贈与税もないため、住宅取得は将来子供への継承も容易です。
税法の未整備も手伝って、欧米諸国や日本よりも、不動産投資にとって良好な環境が整っているといえます。
従って、税制面でのメリットを比較しても、今のチャンスの多い中国人の蓄財速度は速く、短期で資産家を生みやすい環境だ、といえるでしょう。

今後、中国も貧富の差の過度な拡大や資産格差の問題は、不動産バブルの進行と相まって、国全体の経済発展の阻害要因にもなりかねませんので、現在進行中の不動産引き締め措置や物業税、固定資産税の導入などの新たな法制の導入によって、規制・抑制の方向性が明確になっていくでしょう。

しかしながら、中国の一般の住宅需要は逼迫しており、住居抜きの若年層の婚姻は社会風潮として条件面で困難となっており、低所得者向け住宅や一種の公共住宅建設は、ますます重要になっています。

昨年までに中国では、都市住民の所得税は、所得2千元(約2.6万円)以下では徴収を行わないという税法改正を行いました。また、農民についても所得税は無税としています。

中国の国家財政上の税収に占める個人所得税は6.5%程度、法人税も併せて23.3%程度となっています。税収の約40%は国内増値税(企業の仕入額に課税)と国内消費税となっています。
それでも、ここ数年間の国の税収は、10-30%と伸び続けています。

一方、日本での国家税収に占める所得税の比率は約16%、法人税は約16.4%で、資産課税等は18%を越えています。
税制面で見ると、中国での法人税は経常益に対して16%程度、日本では30%程度ということを考えても、個人ないし企業とも資本蓄積は中国での方が断然有利だといえます。

どこで「蓄財を試みるか」ということも、グローバル化の時代には考慮してみても良いのではないでしょうか。
2010/06/07

注)この記事は、過去のものからの再録の形で転載させていただいております。時事的に古い話題が取り上げられていますが、内容的には時間の風雪にも耐えられるものと思い、取り上げさせていただいております。 

2013/04/16