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小さなビジネスパーソンの小さな話(門間啓)

第183回 タクシーのおじさん

当時、
仕事自体にやりがいは感じていながら、
過労のため心身の健康のバランスを崩していて、
物事の悪い面ばかり気になるような毎日でした。

自分より待遇のいい仕事をしている人と比べて
不満を持ったり、愚痴ったり、
やってらんねーぜ、と思っていました。

担当しているプロジェクトが区切りがつく数ヵ月後には、
こんな会社辞めてやる、と思っていた時期でもありました。

そういう私に、このタクシーのおじさんの一言は
ガツンと横っ面殴られたような
大きなショックでもありました。

すみません。傲慢でした。
勘違いしていました。
今ある恵まれた環境を見過ごして、
ないものねだりの高望み、
隣の芝生ばかり見ていました。
気づかせてくれてありがとう。
赤の他人の私に言ってくれてありがとう。

目から鱗がぽろぽろ、ポロポロ、落ちてくるような、
衝撃的な出来事でした。
ほとんど、朝の4時、
うっすらと夜が明るくなってくるような時間です。

綿のように疲れきった身体で、
頭もボーとした限界直前の状態だったのに
心だけは、ありがたさで震えてしまった。

この日から、自分の周りの物事を
いままでとはちょっと違う角度で
見られるようになりました。

病気で働けない人もいるのに
 健康で、働きにいけることがありがたい。
仕事がなくて困っている人もいるのに、
 仕事が山積みになるほどあってありがたい。

きれいごとじゃなく、
心の底から感謝の気持ちで思えるようになりました。

その後、今までと同じ仕事をしながらも
今までと違う気持ちで物事を受け止められる
自分の心の変化が、自分でも驚きです。

そして、思います。
もし、あのまま、仕事への不平不満愚痴を
抱えながら退職して、転職しようとしても、
きっとどの職場も、思い上がっていた私には
満足できずに、同じように不平不満愚痴を
重ねることにしかなからなかっただろう、と。

感謝の気持ちで、自分の職業生活を
見つめなおすことのできた私は、
その後、別の理由で発展的に
退職&進路の変更を選びましたが、
あのおじさんと出会わなかったら、
まったく別の進路へ、全く別の未来へ、
進んで行っただろうと思うと
(戸田ゼミへも参加していないでしょうし)
ちょっと恐ろしくなってしまいます。

2003年の7月8日(火)のことでした。

2006/02/22