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散歩しながら(ぼうちゃん)

第37回 生きていれば

邱さんの本をよんでいて

壇一雄、

小林秀雄、

三島由紀夫、

井上靖

 

などの名前が出て来ると

どうしてもそこは読み飛ばすことが出来ずに

繰り返し読んでしまいます。

 

私が好きな作家を

邱さんがどう見ているか

またどんな交友があったのか興味があります。

 

たとえば三島由紀夫さんが登場する場面

ラジオ番組のゲストとして邱さんが出演して

株の話をしていたら

ちょうど散髪していた三島由紀夫さんが

そのラジオを聴いて、
「邱さん、やっているなあ」と後日に言われ

邱さんが“恥ずかしい”と思われたという話。

若い日の三島由紀夫さんの颯爽とした姿が浮かびます。

 

三島由紀夫さんが

自決する1ヶ月ほど前に邱さんを尋ねて来て

それも大した用事ではなかったから

 

後で考えるとお別れに来たのではないかと

回想するところ。

あの事件の前に本人に会っているのですね。

 
 

小林秀雄さんも出てきます。

 

邱さんが

孔子、荘子、韓非子といった
中国を代表する三大思想家を
書いた本を

 

最初、創元社から出版する予定で、
社長さんも承知していたのに、

 

最終的に断られたのは
同社の顧問をしていた

小林秀雄さんに反対されたからだと

あとで知らされた。

 

という話、いかにも

小林秀雄さんの言いそうなことだし

 
30すぎの若造にいい加減に料理されてたまるか、
と頭から否定されたのも、

 

この齢になればわからないことではありませんと

邱さんは回顧しています。

 

小林秀雄という人 

先生はお好きでしょうか。

 

もしもしQさんで

読者が邱さんに質問していますが

 

こと小林秀雄さんのことなら

見落とすわけにはいきません。

 

小林秀雄さんは私のうちに食事に来られたこともあります。
文壇ではそれなりの地位もあるし、

ファンもあると思いますけど、

私はそんなに影響は受けておりません。
むしろ安吾さんの方が私の気性には合っております。

 

檀一雄さんが私を安吾さんに紹介しようと

言ってくれたことがありましたけど、

 

紹介される前に亡くなってしまいましたので、
そのチャンスを失いました。
でもお書きになったものは今でも私の心に残っております。

 

このあたりの話は

文学好きの者にとっては

興味津々です。

 

特に坂口安吾さんについてのことは

初めて聞く話で

 

安吾さんに対してそういうふうに見ていたかと

邱さんの本質の一部が

分かった気がしてうれしくなります。

 

自分といふ人間は、全くたつた一人しかゐない。

そして死んでしまへばなくなつてしまふ。

はつきり、それだけの人間なんだ。

 

貧乏を深刻がったり、しかめつ面をして

厳しい生き方だなどといふ方が

甘ったれてゐるのだと私は思ふ。

 

好きな人に好かれる、

ある意味では、

そんなことはメッタにないのかも知れない。

 

坂口安吾さんの言葉なのですが

邱さんのものだと言っても違和感がありません。

 

以前から私は感じていましたが

二人にはモノの本質を掴み取る

嗅覚と物言いの辛辣さ

共通したものがあります。

 

 
檀一雄さんのこともそうですが

邱さんが

安吾さんを私の気性に合っておりますと

いうのを聞きますと

 

好きな人が

もうひとりの好きな人を

好意的にみているときと同じ

 

うれしい気持ちになりますが

まさにそんな気分です。

現在ただいまの日本の惨状を

小林秀雄や三島由紀夫が生きていたら

何を語るか興味があります。

2011/04/09