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散歩しながら(ぼうちゃん)

第32回 死に方

大地震と津波による惨状は
被災地の人達の比較にはなりませんが
震度6の揺れを体験しましたので
その恐ろしさがまだ身体に残っています。

死者と行方不明者が数万人という大惨事は
死生観も変えてしまいます。
ちょうど地震の日にコラムを書いていました。
安楽死についてのことでした。

アメリカの人で
ガンに侵され二日後の(三月八日)には
安楽死を迎えるという人が、
「残り51時間」というタイトルで投稿したものが、
ネット上の反響を呼んでいて
たまたま私は24時間前に読みました。

人は死が近くなると、本当の自分が出るのかもしれない
そう感じながら読んでいました。

(本人)オレゴン州の尊厳死法のおかげで、
    ようやく火曜日にガンとの闘いが終わります。
    準備のひとつとして鎮痛剤を切り、
    残っている限りの自尊心を取り戻そうと思っています。

    自分が誰だったかというのは関係ありません。
    痛みが常にあり、疲弊しきった末に、
    ようやく一片の尊厳を許されました。

    質問したい人は何でも聞いてください。
    自分が答えられる限り答えます。

(本人)正直にいうと痛みだけが問題で、
    そのことは医者にも言われました。
(本人)リンパ腫であちこちに転移しています。
(本人)6年。脳に転移して、もうこれ以上手術は出来ない。

(質問)残りの日はどうやって過ごしますか。

(本人)最初の24時間は家族と過ごします。
    新品のiPadを使って掲示板につないだり、
    写真を見たりね。
   月曜日にはできるだけたくさんの手紙を書くつもり。

(質問)何か後悔は?

(本人)ひとつだけ。
    高校のときの彼女に婚約指輪を買って
    渡さなかったこと。そのひとつだけ。

(質問)指輪は送ったらどうだろう?まだ時間がある。

(本人)それはよくない。
    彼女を9ヶ月前に見つけて電話で話したよ。
    彼女は僕が病気だということは全く知らずに
    会おうと言ってくれた。
    月曜日には彼女は僕からの手紙が届く。
    彼女に指輪のことは言わない。
    僕が一緒に持っていく。

(質問)一番うれしい思い出は?

(本人)僕の甥がガンに打ち勝ったこと。
    彼が子供のときにガンにかかり、
    フィラデルフィアの小児病院で治癒してもらい、
    9年経つがガンの再発はなかった。
    次が夏に父親と野球を見に行ったことだ。

(質問)僕らにメッセージか教訓を残したいとすれば、
    それは何だろうか?

(本人)我々が持っている何であれ、
    人を傷つける価値はないということ。
    何もかも儚いものだということ。

(質問)どうして火曜日なんだい? 
(本人)妹の誕生日が18日なので、
    病院やお葬式で誕生日を過ごさないように。

(質問)それはすごい心遣いだ。
    彼女はすてきなお兄さんを失うね。
    読んでいて鳥肌がたったよ。

    死ぬことは怖くないかい?
    死というものが怖くないかい?

(本人)恐怖でいっぱいさ。
    でも家族には絶対言うつもりはないよ。
    痛くないことを望む。

(質問)何か価値のあることをしてみたいですか?
 何かずっとしてみたかったことは?

(本人)Youtubeのビデオを作る計画をしているくらいかな。

(質問)質問に答えるほかに、最後の数時間は何をして過ごすんだい?
 
(本人)最後の数時間は「生きる」んだ。
 これは僕にとっての旅行であり、
 新しい人々に会うのにもっとも近い方法だ。
 バカのように聞こえるかもだが、これが僕の世界ツアーなんだ。

(質問)どんな考えが脳裏をよぎっていますか?
 
(本人)まだあまり。月曜日が一番つらいのではないかと思う。

(質問)何も質問したくないけれど、ハグしてあげたいよ。
    子どもとか孫とかいますか。なにか自慢できることは?

(本人)子どもも孫もいない。
 自慢できることは大学を卒業できたこと。

    

膨大な質問と回答のため、紹介できるのはほんの少しにすぎませんが、
現在進行形でどんどんとコメントが寄せられていました。
いろんなコメントを見ているだけでウーンという気持ちでした。

もし自分の死が目前に迫ったとき、どんな行動をするのか
どんな考えを持つのでしょうか。
 
ひとつだけの後悔が
高校のときの彼女に婚約指輪を買って渡さなかったこと
というのが泣かせます。

 

あと何時間の命と分かっているときに
こんなやり取りを他人とできるだろうか

私には自信はありませんし
諦観どころかかえって
ジタバタするような気がします。

しかしいつかは必ず死ぬのですから

呆けて何も分からず死ぬよりも
苦痛がホドホドならば
冷静に自分の死を見られるほうが良いかもしれない。

そしてあの大地震でした。
一瞬のうちに何万人が津波に呑まれて消えました。

2011/03/25