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散歩しながら(ぼうちゃん)

第25回 寝ても覚めても

石田衣良という作家は
十五歳から十年間
毎日三冊の本を読み続けたそうです。
高校生の頃からですから大したものです。

浅田次郎は
子供のときに作家になろうと決め
書いても書けなくても
毎日机の前に座り
原稿用紙に一字でも書くと決め実行しました。

小学生のイチロ-は
毎日学校が終わってから
バッテイングセンタ-でバットを振り続けました。

大工さんは木をカンナで削って
十年まいにち。

板前が魚を捌いて
十年まいにち。

その道で精進します。

十年で何が分かるか、というより
その道の入り口に立てることは確実です。

 

十年やったら一人前。
毎日ということが肝心で
とにかく毎日休んではいけない。

休まず十年続ければ
いっちょ前なんだということ。

これが真理です。

このことを肝に銘じてから私は
自分の非才を嘆くより

先ずは始めよ、続けよ、を
心がけています。

どんなことでも、
十年、毎日、休まず、続けたら
かならず、
いっちょ前になれる、と思うことで

どのくらい心の安定を得たか分かりません。

 

しかし実際に10年の間、
毎日なにかを
続けていくということは、
そう簡単なことではないわけで、

しかも人間十年同じことをしていれば
かならず
そのことから良くも悪くも
心身に影響を受けるのです。

物事なんでも百パーセント良いということはなく
かならず反作用はあります。

かならず肉体にダメ-ジを受けますが
とことんやるには仕方のない代償です。

たとえば作家なら
ペン蛸や腱鞘炎、眼精疲労
大工や料理人なら
冷えからくる坐骨神経痛とか。

しかし身体に受けるダメ-ジよりも
ずっと大事な
仕事の本質を掴むことができる
可能性のほうが格段に大きいのです。

 

私の乏しい経験から言っても
この時期のとくに熱くなっているときは

寝ても覚めても、
という感じで夢中になって
時間があっという間に過ぎてゆく
大げさでなく寝食を忘れるという感じです。
 
これはまた快感でもあります。

何でもいいから
この十年間の経験をひとつでも持っている人は
それだけで
生きた甲斐があったといえます。

2011/03/04