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散歩しながら(ぼうちゃん)

第18回 探偵の気分

まとめて休みがある時は
積んどく本が読める楽しみがあります。

正月の三が日は静かに過ごしました。
今年は西遊記全八巻と
半七捕物帳全六巻。

本を抱えて炬燵に潜り込むという寸法です。

西遊記は三蔵法師一行が天竺に
到るまでの天衣無縫な物語で

年の始めに気宇壮大な気分になります。

半七捕物帳は
江戸情緒ゆたかな時代推理小説。

考察の鋭さとその歯切れの良さと
テンポの良い江戸弁で
小気味よくすいすいと
犯人を白状させていく。

ろくな証拠もないまま
犯人と決めつけてしょっ引いたり

むちゃくちゃのところもありますが、
この時代はそういうことだったのだと思い
かまわず読んで楽しんでいます。

読みながら炬燵でウトウトするのもご愛嬌。

ウトウトしながら思いはやがて
半七親分よろしく推理の世界へ。

私はひょんなことで知り合った
Tさんの話が心に残っていました。

Tさんはあるときパ-テイ-で
作詞家の阿久 悠さんを紹介されたそうです。

阿久さんは小柄でズングリムックリ。
色浅黒く硬肉体、眼光鋭い人。

知り合いの先輩が「T君はむかし寺山修二のところで・・・・」
と阿久さんに紹介してくれたが、

「阿久です。よろしく」と
可もなく非もなくといった態の
実にアッサリしたものだった。

先輩が「寺山修二のところ」と言った際に
阿久さんがさらりとそこをすり抜けた時、

私は彼が「意識していることは間違いない」
と確信した。

寺山さんと阿久さんの二人がどこかで
反目し合ったという話も聞かない。

おそらく、推測の域を出ないが、
二人は互いをシカトすることに決めた、
そう想うしか他を思い浮かばない。

と、Tさんは話してくれました。

面白い話だと思いました。
興味深く聞きました。

まったく異なる分野か
才能が格段の差があるときには
ふたりに敵対心は起こらないものです。

しかし自分の意識の中に同じような才能が
その存在感を克明に示すとき

相手が強力なライバルと
なるのではないかと思います。

阿久 悠さんの目の光を見逃さず
心の中を推理して

文学者のプライドと
コンプレックスとが交錯したのを
Tさんは一瞬で見抜いたんじゃないですか?と

今度確かめてみようかと思っています。

ウトウトしながら私も何だか探偵の気分
さっきまで読んでいた
半七親分になったようです。

2011/02/16